訪問介護のプライバシー保護研修で知りたい基礎知識と介護度ごとのケース
「訪問介護のプライバシー保護研修で押さえておきたいポイントってあるのかな」と悩んでいませんか。
なかには、「しばらく前に研修を受けたけど要点があやふや」と、記憶があいまいな人もいるでしょう。
プライバシー保護の研修で押さえておくべきポイントは、訪問介護は私的領域に立ち入る仕事という自覚と、利用者さんの尊厳を守ることです。
今回、「みーつけあ」では、プライバシーと個人情報の違いの基礎知識から、私的領域の侵害となるケースまで紹介します。
介護度別のプライバシーが保護されにくいケースも確認して、訪問介護のコンプライアンス意識を高めましょう。
1.訪問介護のプライバシー保護研修の基礎知識
あらためて、訪問介護のプライバシー研修で必須の目的意識や言葉の意味をおさらいしましょう。
再確認しておきたい基本的な知識は、以下の3つです。
- プライバシーとは干渉を受けない権利のこと
- プライバシーと個人情報は違う
- 倫理・法令遵守によりプライバシーは保護される
基礎的な知識をおさらいすると、研修内容がよりスムーズに理解できるはずです。
知識1.プライバシーとは干渉を受けない権利のこと
プライバシーとは、個人の生活や秘密が他者から干渉を受けない権利のことです。
現代社会でのプライバシーは、個人の生活の公開や干渉を回避する内向きの意味だけではありません。
近所の人やまったく関係のない第三者に介護内容を知られたくないといった、自身の情報をコントロールする外向きの意味も含まれています。
訪問介護におけるプライバシーの保護とは、人間としての尊厳を傷つけない介助や、利用者さんの自己決定の尊重です。
つまり、プライバシーは知られたり干渉されたりしたくないと感じる私的な領域すべてを指し、訪問介護を利用する人の人権を守る大切な権利です。
知識2.プライバシーと個人情報は違う
プライバシーと個人情報は、意味が似ているようで異なります。
個人情報とは、自身の名前・生年月日・出身地などの内容から、特定の個人を判別できる情報のことです。
「その人が誰であるか」を特定できる情報が揃っていれば、個人情報となります。
個人情報の保護とは、特定の個人を判別できる情報を、外部に漏らさないことです。
個人情報はあくまでも特定の個人を示すものであり、プライバシーと同様に保護しないと利用者さんに不利益を与える可能性があります。
知識3.倫理・法令遵守によりプライバシーは保護される
訪問介護による利用者さんのプライバシーや個人情報は、倫理と法律により保護されています。
倫理(モラル)とは、人として正しい道のことです。
倫理観に欠ける行為は、罪に問われるわけではないものの、処分の対象とする施設は多いでしょう。
しかし、仕事をこなしているうちにヘルパーの立場が強くなり、独自の価値観を判断基準に動いているケースも見られます。
ヘルパーの独断による介助やサポートは、プライバシーを侵害したり利用者さんの個人情報を思わぬ形で漏洩したりする確率が高く、健全なサービスとはいえません。
訪問介護において、ヘルパーが従うべき判断基準の優先順位は以下のとおりです。
「法令>倫理>価値観」
ヘルパーの価値観を優先した判断をすると、悪意がなくても法律違反になったり、倫理規定違反になったりするので注意しましょう。
あくまでも法令遵守したうえで、倫理にもとづいた介助をおこなうべきです。
2.訪問介護は利用者さんのプライバシーに立ち入る仕事
訪問介護は、利用者さんのプライバシーに立ち入ってサービスを提供する仕事です。
利用者さんの日常生活の手助けや自立支援をおこなうには、プライバシーに立ち入らないと満足度の高いサポートを提供できません。
訪問看護がプライバシーに立ち入る仕事である理由は、以下の2つです。
- 訪問介護は利用者さんの自宅でお世話をする
- 利用者さんの個人情報や人となりを聞く作業がある
それぞれ、詳しくみていきましょう。
理由1.訪問介護は利用者さんの自宅でお世話をする
自宅で介助したり、自立支援のサポートをおこなったりする訪問介護は、利用者さんの日常生活の様子といったパーソナルな部分が見えやすくなります。
なぜなら、利用者さんの自宅にあがること自体が、プライバシーに立ち入る行為だからです。
ヘルパーが掃除や調理、洗濯といった日常生活を支えるので、部屋の間取りや通帳のありかなどの、プライベートな情報を得る機会が多くなります。
さらに、入浴や排せつの介助をおこなうことで、利用者さんの身体的なプライバシーにも踏み込むことになるわけです。
訪問介護は、利用者さんが一日の大半を過ごす自宅で介助やサポートをするため、介護施設よりもプライベートな情報が目に入りやすいといえます。
理由2.利用者さんの個人情報や人となりを聞く作業がある
訪問介護を開始する前に、居宅ケアマネジャーが利用者さんの個人情報や人となりを聞く面談を設けるため、プライバシーに関する情報が入ってきます。
なぜなら、訪問介護は利用者さんの個人情報や病歴、家族関係をヒアリングしてケアプランを組むからです。
ケアプランは、利用者さんの介護度や困りごとに合わせた適切な介護をおこなうための計画書なので、訪問介護に欠かせません。
居宅ケアマネジャーによるヒアリングでは、現在の家族関係やこれまでの職歴なども詳しく聞くため、プライバシーに踏み込んだ情報をたくさん得ることになります。
3.訪問介護でプライバシーが保護されない状況とは?
利用者さんの私的領域に立ち入らざる得ない訪問介護で、どのような状況がプライバシー侵害にあたるのか気になる人もいると思います。
訪問介護でプライバシーが保護されない代表的な例は、以下の4つです。
- 家の状況に対し必要以上のアドバイスや介入
- 安全確保のための入浴排せつ時の監視
- 入浴時の丸洗い
- オムツの強要
それぞれ、順番に見ていきましょう。
状況1.家の状況に対し必要以上のアドバイスや介入
家の中の状況に対して、必要以上のアドバイスや介入はプライバシーの侵害といえます。
たとえば、部屋の状況に対し「整理整頓しないと思考がスッキリしないから片付けるべき」といった価値観の押しつけは、利用者さんにとって必要なアドバイスといえません。
よかれと思って口出しをしても、ヘルパーの価値観によるものであればプライバシーの干渉となります。
また、利用者さんの家族関係に対し自己判断で介入する行為は、土足でプライバシーに踏み込むようなものです。
ヘルパーの価値観にもとづいたアドバイスや介入は、利用者さんにとってプライバシーの侵害になるので控えましょう。
状況2.安全確保のための入浴排せつ時の監視
安全確保のための入浴や排せつ時の過度な監視は、利用者さんのプライバシーを侵害します。
もちろん、利用者さんの介護認定の度合いや、浴室やトイレの状況によっては監視も必要です。
しかし、必要以上に監視されながらの入浴や排せつは、気分のよいものではありません。
介護度にあわない過度な監視は、利用者さんの反抗心や怒りにつながります。
利用者さんの介護度に合った方法で介助し、自尊心を傷つけないように意識しましょう。
状況3.入浴時の丸洗い
入浴時の丸洗いは、デリケートゾーンもあらわになるので、苦痛に感じる人も多いです。
利用者さんの身体が不自由になったり認知力が弱くなったりしても、プライドや羞恥心は残っています。
デリケートゾーンにタオルをかけたり、気をそらすために話題を作ったりして、利用者さんの羞恥心を和らげましょう。
入浴作業は重労働のため効率よく行うことに集中しやすいですが、利用者さんの私的領域に立ち入る行為です。
利用者さんの気持ちを尊重した介助で、人間としての尊厳を傷つけないようにしましょう。
状況4.オムツの強要
自力でトイレへ行けるのにもかかわらずオムツを強要する行為は、自立支援を妨害し利用者さんの尊厳を奪う行為です。
訪問介護の目的のなかには自立支援も含まれており、自分で身の回りの世話をできるように支援して、利用者さんの日常生活動作(ADL)を向上させる狙いがあります。
日常生活動作(ADL)とは、日常生活を送るために最低限必要な動きのことです。
利用者さんの日常生活動作(ADL)が向上すれば、その人らしく生活できる期間が長くなります。
オムツをしていないと粗相の確率が高まり、清掃や着替えという工程が増えます。
しかし、自立支援を妨げる理由にはなりません。
自力でできることをヘルパーの都合で強要する行為は、利用者さんの生きるちからや自分で決める権利を奪うことになります。
4.訪問介護で介護度によるプライバシーが保護されにくいケース
介護認定の度合いによって介助する内容が変わるので、プライバシーの侵害と認定される行為も状況に応じて変化します。
介護度が大きくなるほどプライバシーに立ち入らないと、満足のいく介助やサポートができません。
介護度ごとに、プライバシー侵害となるケースを見ていきましょう。
- 要支援の段階のプライバシーの侵害
- 介護度1~2でのプライバシーの侵害
- 介護度3~5でのプライバシーの侵害
介護度によって、どこまで踏み込んで介護すべきか、参考にしてください。
ケース1.要支援の段階のプライバシーの侵害
要支援の認定を受けた利用者さんにとってのプライバシー侵害行為は、日常生活に関する干渉です。
要支援とは、日常生活や動作をほぼ自分でおこなえるため介護は必要ないものの、他者の支援が必要な状態のことです。
訪問介護を利用する人のなかには、自宅に招き入れることやお世話されることに抵抗のある人も一定数います。
自力で生活を営んでいる自負のある利用者さんであれば、「必ず手すりをもってゆっくり階段を降りてください」という声がけを何度も受けたときに、気分を害すケースは珍しくありません。
あくまでもヘルパーは、自立した生活をサポートする立場です。
できない前提でのしつこい干渉や、ヘルパーによる価値観の押しつけは控え、信頼関係を築きながら自立した生活を支援しましょう。
ケース2.介護度1~2でのプライバシーの侵害
要介護1〜2の認定を受けた利用者さんにとってのプライバシー侵害行為は、利用者さんの気持ちを汲み取らなかったり、自己決定を無視したりする行為です。
要介護認定をされると、清掃や炊飯といった家事や金銭の管理、服薬といった日常生活だけでなく、入浴や排せつなどの生理現象にまつわる介助も必要になります。
そのため、ヘルパーは利用者さんのプライバシーに踏み込む介助を避けられません。
しかし、自力でできる行為も多く「世話になりたくない」や「迷惑をかけたくない」という理由から、ヘルパーに頼みごとをしなかったり呼び出し合図を使わなかったりします。
トラブルが起きたときに気持ちを汲み取らずに叱ることや、利用者さんの意思確認をせずに入浴や排せつの介助をヘルパーのペースで行うのは、プライバシーの侵害です。
ヘルパーの感情や価値観で行動するのではなく、利用者さんとコミュニケーションをとりながらサポートしましょう。
ケース3.介護度3~5でのプライバシーの侵害
介護度3〜5の認定を受けた利用者さんにとってのプライバシー侵害行為は、無遠慮な介護です。
介護度が大きくなると、ひとりで日常生活を送れず、思考力や理解力の低下による問題行動や認知症の症状がみられます。
基本的にヘルパーの監視や介助が必要になるので、利用者さんの自由はゼロに近いです。
そのため、介護度3〜5の利用者さんを介助するには、パーソナルなプライバシーに踏み込まないといけません。
しかし、介護度が大きくなっても利用者さんは自尊心や羞恥心を持っているため、入浴や排せつ時には配慮が必要です。
介護するためにプライバシーに立ち入る必要がありますが、安全確保や効率を優先した介助だと利用者さんの尊厳は損なわれます。
人間としての尊厳を尊重した介護で利用者さんが苦痛に感じないよう意識しましょう。
まとめ:信頼関係を築きながら利用者さんの尊厳を守ろう
訪問介護でのプライバシー保護の研修では、言葉の意味の再確認や、私的領域の侵害となる具体例を確認して理解を深めましょう。
訪問介護自体が、利用者さんのプライバシーに立ち入る行為なので、利用者さんとの信頼関係を築きながら、自己決定や尊厳を守ることが重要です。
利用者さんと接しているときに「この行為はプライバシー侵害かな」と判断に迷ったときは、以下の順番でチェックしてください。
- 法律に違反していないか
- 倫理的に大丈夫か
- 価値観の押しつけになっていないか
利用者さんのプライバシーを保護しながら、快適に過ごしてもらえる介護を提供しましょう。