訪問介護でベランダの掃除はできる?業務範囲を詳しく解説
訪問介護のなかで、掃除はニーズの高いサービスの1つです。
掃除における主な訪問介護の対象は、日常生活で使用頻度の高い居室に限定されます。
ベランダの掃除は、「サービスとなるのか、ならないのか」という線引きに、悩むことも多いでしょう。
普段からベランダを利用している人であれば、日常生活の居室の1つとして捉えられそうですね。
しかし、介護保険サービスにおけるベランダ掃除は、範囲外となるのが一般的です。
そのため、サービス提供者側と利用者さん側で争点となるケースが見られます。
今回「みーつけあ」では、ベランダの掃除を中心に、訪問介護のサービスについてまとめました。
また、保険の範囲でできること・できないことや、対応できないサービスをうまく断るためのポイントも解説します。
1.訪問介護でベランダの掃除はできない
結論として、訪問介護ではベランダの掃除ができません。
訪問介護のサービスでは、掃除が一般項目として含まれています。
そのため、「なぜベランダ掃除がダメなのか」と疑問に思う人もいるでしょう。
理由を理解するには、訪問介護の目的を確認する必要があります。
訪問介護サービスのなかで、掃除は生活援助に分類されるサービスです。
【生活援助の例】
- 掃除
- 洗濯
- 調理 など
生活援助の目的は、利用者さんやご家族が最低限の日常生活を送ることが困難な場合に支えることです。
たとえば、以下のようなケースで生じる問題や課題を解決するのが、訪問介護の目標となります。
- 利用者が単身暮らしである
- 家族が障害を抱えている
- 疾病や持病等で普段の生活に支障がでている
訪問介護のサービスは、国や自治体の限られた財源で行われるため、優先順位が定められています。
掃除の範囲は「日常生活を営むために最低限必要な範囲に限られる」と、解釈する自治体が多いです。
ただし、この点は各市町村で取り扱いが異なるので確認しましょう。
ちなみに、最低限必要な掃除範囲とは、トイレやキッチン、寝室など日常生活でどうしても欠かせない場所が該当します。
一方で、庭やベランダといった屋外は生活の困難さに直結する場所ではないため、サービスの対象外とみなされます。
ベランダの掃除だけでなく、以下の項目も同様です。
- 大掃除や庭木の手入れ
- 普段使用することのない(少ない)部屋など
こういった内容も、サービス範囲の対象外となります。
2.訪問介護でベランダの掃除を依頼されたら確認
ベランダ掃除の要望があったときにすべきことと、対処した事例について見ていきます。
ベランダ掃除の依頼に対しては、サービス範囲と自治体やケアプランの確認が大切です。
そのうえで、利用者にとって「ベランダ掃除が必要かつ不可欠か」を検討します。
ベランダ掃除は、「訪問介護のサービスに含まれる」と思われやすいです。
たとえば、日常生活のなかでベランダは洗濯物を干したり、物を乾かしたり、観葉植物を設置する場所として使います。
このような場合には、「日常生活には欠かせない場所」と認識している利用者さんもいるでしょう。
そうなると、日常的に使っているベランダを掃除範囲に含めるかどうかの線引きが、さらに微妙になります。
介護保険は公的な制度であるため、例外を認めるのが難しい一面があるわけです。
しかし、担当している利用者さんにとって「ベランダが本当に必要な場所」である場合、解決する糸口が見つかるかもしれません。
この項目では、以下の3つに分けて確認事項を解説します。
- 生活援助の範囲
- ケアプランに含められるかを検討する
- 事業所として対応した事例はあるか
それぞれ確認しましょう。
確認1.生活援助の範囲
まずは、生活援助の範囲について確認しましょう。
サービス範囲についての情報は、インターネットでも検索できますが、法改正といった政策によりサービスが改変されることがあります。
そのため、生活援助の範囲については、事業所のサービス責任者やケアマネージャーに確認すると確実です。
生活援助でできること | 生活援助でできないこと | ||
項目 | 具体例 | 項目 | 具体例 |
掃除 | ・利用者の居室 ・トイレの掃除 ・テーブル上の掃除 ・ゴミ出し など | 日常生活に必要な範囲を超えた掃除 | ・大掃除 ・窓ガラス拭き ・ワックスがけ ・換気扇の掃除 ・エアコンの掃除 ・ベランダの掃除 ・照明機器の掃除 ・庭の手入れ ・洗車 ・雪かき など※普段利用しない部屋の掃除は屋内外とはず不可 |
洗濯 | ・洗濯 ・物干し作業 ・収納物の出し入れ ・アイロンがけ など | 日常生活に最低限必要な買い物以外 | ・し好品の購入 ・仕事に関すること(例:自営業用の商品の仕入れなど) ・不必要に遠方の店まで買い物に出かける ・利用者本人ではなく家族のための買い物 など |
ベットメイキング | ・シーツ交換 ・寝具カバー交換 など | その他 | ・話し相手としてだけの利用 ・来客対応 ・趣味の手伝い ・特別なイベント調理(おせち料理や誕生日などの準備など) ・引越しの荷造り ・ペットの世話 ・模様替え など |
衣類の整理と修繕 | ・衣替え ・ボタン付け ・破れの補修 など | ||
調理 | ・日常の調理 ・配膳 ・後片付け など | ||
買い物と薬の受け取り | ・日用品の買い物 ・薬の受け取り など |
上記の項目のとおり、訪問介護はできること・できないことの線引きがされています。
生活援助サービスは、あくまで日常の生活を支援するのが目的です。
公的財源を使うため、「便利屋だと判断されかねないもの」は訪問介護の対象外とみなされます。
確認2.一緒に掃除するケアプランもある
原則として、介護保険サービスの対象外であるベランダ掃除ですが、対応によっては認められるという見解もあります。
たとえば、利用者さん本人が中心となって掃除を行い、ヘルパーが様子を見守る場合です。
この場合は生活援助ではなく、身体介護のカテゴリーで行うものと解釈されます。
厚生労働省によれば、身体介護のカテゴリーで掃除が認められるケースに該当するのは以下のときです。
- 利用者と訪問介護員が一緒に動作を行うこと
- 利用者の自立支援・重度化防止につながるとケアプランに位置付けられていること
- 掃除がケアプランに含まれている場合
ただし、これには以下の注意点があります。
- ベランダの掃除が利用者さんの生活にとって極めて重要であること
- ケアマネージャーが認め、正式にケアプランのなかに組み込まれていること
- 事業者が認めていること
- 保険者(自治体)が認めるほどの客観的な理由があること
つまり、利用者さんが主体となって掃除しつつ、それをサービス提供者が見守る場合は「訪問介護と認められる」可能性があります。
確認3.事業所として対応した事例
地域によっては、「ベランダの掃除ができる場合」を示す事例があります。
非常に特殊なケースですが、ベランダ掃除がサービス対象となる場合があるわけです。
たとえば、活火山のある地域では日常的に火山灰が家屋にみまわれます。
屋根や窓、ベランダに多量の火山灰が溜まると、ドアや窓の開け閉めに支障が出たり、洗濯が干せなくなったりする問題が発生します。
また、普段から火山灰の清掃をしている地域であれば、ベランダの掃除も日常生活に含まれるわけです。
こうしたケースでは「ベランダの降灰を除去する行為」が訪問介護サービスとして認められます。
3.訪問介護でベランダの掃除を断わるポイント
ベランダ掃除を頼まれたとき、対処すべき方法を考えてみましょう。
基本的にベランダ掃除は訪問介護の対象外となるため、頼まれても断らなくてはいけません。
「部屋の掃除ができるなら、ベランダの掃除も当然できるはず」と思っている利用者さんと、見解が食い違えばトラブルとなります。
それまで培ってきた利用者さんとの関係が壊れると、以後の業務にも差し支えが出ます。
また、クレームとして事業所に連絡が入れば、お互いに気持ちよいものではありませんよね。
断るときに絶対の方法というものはなくケースバイケースとなりますが、心得ておきたいポイントがあります。
そのポイントとなるのが、以下の項目です。
- 丁寧に対応する
- できないことは明確に伝える
- 傾聴を心がける
ここで大切なのは相手の意見を十分に聞いたうえで、介護サービスの規定を丁寧な説明で伝えることです。
ポイント1.丁寧に対応する
1つめのポイントは、丁寧な対応です。
単に「できない」「それは無理です」とだけ伝えると、利用者さんは納得してくれません。
もしもヘルパー個人の意見だとみなされれば、担当者個人に対して不信感を抱かれる可能性もあります。
丁寧な対応というのは抽象的で難しいですが、要点としては以下の2つの態度を示すことだといえます。
- 共感している気持ちを伝えること
- 謝罪の意志を伝えること
ベランダの掃除をやってもらいたいという要望は「共感できる」「その思いを理解できるが対応できない」といった旨を伝えましょう。そして、謝罪の気持ちを添えることを忘れないでください。
(例)
「ベランダを綺麗にしたい気持ちは十分に理解しています。ですが介護保険のルールとしてベランダの掃除はできないことになっているのです。ご要望に応えたい気持ちはあるのですが、本当に申し訳ありません」
上記は、参考となる例文のひとつです。
利用者さんとの日頃の関係によって、伝え方は臨機応変に対応します。そして伝えるときは「共感」に加えて、「謝罪」の気持ちを添えるようにしましょう。
ポイント2.できないことは明確に伝える
ポイントの2つ目です。できないことは、はっきりと「できない」と伝えること。返答を曖昧にするのは、結果的に後々のトラブルにつながります。
「サービスのできる・できない」は、契約時の説明が理想です。後出しで説明するのは望ましくありません。
サービスの内容をあらかじめ説明すると、のちのちのトラブル防止に繋がります。このとき、できない理由についても丁寧に説明するようにしましょう。
訪問介護サービスは、保険制度の枠のなかで行われるものです。制度上のルールが設けられていて、それは担当者が個人で対応できる規制ではありません。
これを踏まえて「できないサービス」については、はっきりと伝えておくことが大事です。加えて、「できない理由」の説明も忘れないでください。
ポイント3.傾聴を心がける
3つ目のポイントは傾聴です。つまり真摯に相手の話をきくこと。傾聴は相手の本当のニーズを知る意味で大切なポイントです。
利用者さんがベランダの掃除ができないことに不満を述べていても、話を聞いているうちに「本当の不満はベランダの掃除を断られたことではなかった」という場合があるかもしれません。
たとえば「事業所の対応に対する不信感」であったり、「ケアプランの不備」であったり、あるいは「日頃のヘルパーの態度に対する不満」などが考えられます。
こうした事例では、本当の問題に対応することで、ベランダ掃除の問題が解消されます。
利用者さんの心の奥にあるニーズを引き出す必要があり、そのためには相手の意見をしっかりと聞くしかありません。そのコツが、傾聴です。
訪問介護でベランダの掃除に関するQ&A
訪問介護による、ベランダの掃除でよくある質問事項をまとめます。
原則として、訪問介護サービスとしては認められない「ベランダの掃除」ですが、それにまつわる問題は多いものです。
とくに掃除は「日頃の活動場所とそうでない場所」でサービス範囲が区切られているので、判断が難しい内容です。
ここでは、掃除に関連してよく聞かれるQ&Aを抜粋しておきますので、参考にしてください。
Q1.ベランダの手すりの掃除はできる?
A.認められます。ただし、ケアプランの確認が必要です。
洗濯物を干す場合であり、洗濯物に汚れが付かないようにふき取る場合は認められる可能性があります。この場合は、ベランダの捉え方をどう考えるかで見解がわかれるため、きちんとケアプランを確認しましょう。
記載がなければ、ケアマネージャーに確認してください。
Q2.訪問介護でゴミ捨ては対応できる?
A.ゴミ出しは対応可能です。
訪問介護のサービスとして、ゴミ出しは基本のサービス項目に含まれています。
介護保険のサービスは自治体によって考え方が異なる場合がありますが、ゴミ出しで意見が分かれることはありません。
ゴミ出しは家事の基本的な行為のひとつであって、不衛生な生活環境を予防する意味でも必要な家事作業です。
しかし、身体に困難がある人にとっては一苦労の作業となるため、訪問介護のサービス対象となります。
ただし、確認事項としてケアプランに含まれていることをチェックしておきましょう。
Q3.訪問介護でベランダの掃除以外の対応は?
A.訪問介護の主たる目的として、掃除はサービスに含まれます。ただし掃除の範囲は限られているので確認しましょう。
一般に認められているのは以下の項目です。
- 利用者の居室(本人が使うスペースに限られる)
- トイレの掃除
- テーブル上の掃除
- ゴミ出し
これ以外の場所も考えられますが、疑問を感じたらケアプランを確認してください。不明な点や疑問などがあれば、ケアマネージャーやサービス提供責任者に相談しましょう。
▼以下の記事もぜひ確認してみてください。
>>訪問介護でヘルパーを交代して欲しいと依頼されたときの対処法
まとめ:生活で必要不可欠な援助をしよう
この記事では、訪問介護とベランダ掃除に関して解説しました。
掃除は訪問介護へのニーズとして頻度の高い項目です。
ところが、サービスの範囲が「日常で使うスペース」と区切られているため、どこからどこまでが掃除の範囲に含まれるのかが、曖昧となるケースは少なくありません。
利用者さんにとっても、またサービスを提供する側にとっても、疑問が生じやすい項目です。
実際のところ、介護保険の制度はある程度の抽象性があり、できること・できないことをまとめて列挙していません。
介護保険では抽象的に制度を取り決め、細かい内容については具体例を考えながら判断していく特性があります。
そのため、市区町村(保険者=介護保険の運営者)ごとにマイナールールを設けている地域もあり、ある地域では認められないサービスが別の地域では認められる場合もあるわけです。
介護保険は地域性を考えて運営されるため、基本はどの地域でも共通していますが、臨機応変さも認められています。つまり、利用者さんにとって必要不可欠な場合は、サービスとして提供できる可能性があります。
普段の関わりのなかで「ベランダの掃除が必要」と感じる場合は、一度ケアマネージャーや事業所と相談してみるのもよいでしょう。