訪問介護でヘルパーを交代して欲しいと依頼されたときの対処法
訪問介護では、利用者さんから「ヘルパーを交代して欲しい」という依頼を受けることがあります。
利用者さんが、「担当者の交代」を希望する理由はさまざまです。しかし、多くはクレームと重なり、慎重な対応が求められます。
そのため、利用者さんの希望には真摯に応えられるように、対処法を覚えておきましょう。
今回「みーつけあ」では、訪問介護でヘルパーの交代をお願いされたときの、対処法をメインに紹介します。
ヘルパーの交代を希望する「原因」「経緯」「対応方法」などを検討し、適切な対応をおすすめします。
⒈ 訪問介護でのヘルパー交代にうまく対応するには
訪問介護の場面において、担当ヘルパーを交代するケースは少なくありません。
苦情・クレームが発端となって「交代せざるをえない」といったケースもあります。
- 「担当者を変えて欲しい」
- 「いまのヘルパーはだめだ」
このような苦情・クレームは、訪問介護に携わっていれば少なからず受けます。
場合によっては、苦情・クレームの対応策として、担当者の交代を迫られることもあるでしょう。
しかし、事業所の人材には限りがあり、頻繁なヘルパー交代には対応できません。
そこで、利用者さんの思いを尊重しつつ誠意を示せる、以下の3つを覚えておきましょう。
- 頻繁に交代を頼まれる状況を把握
- クレーム内容の整理・分析
- 従業員の人数を検討する
それぞれ詳しく紹介します。
ステップ1.頻繁に交代を頼まれる状況を把握
まず、利用者さんから「ヘルパー交代」の要望があった状況を整理しましょう。
以下の内容に分け、状況を考えてください。
- 要望しているいるのは「本人」なのか「家族」なのか
- 過去にも同様のケースがあったか
- 交代要請の頻度が多いのは「利用者側」なのか「担当ヘルパー」なのか
以上の項目を踏まえたうえで、ステップ2へ進みます。
ポイント2.クレームの内容の整理・分析
クレームの内容を整理したら、次に内容を細かく分析します。
適切に対応するために、ヘルパーの交代を望んでいるのが、「利用者本人」あるいは「家族」なのかを確認しましょう。
本人がサービスに満足していても、家族が不満に思っているケースもあります。
利用者さんの思いに反して、家族の都合でヘルパーを交代しても問題解決にはなりません。
訪問介護は、「第一に利用者さん本人の心身を支援する」ことが大切です。
次に、過去のケースを洗い出します。
同じ利用者さんに対し、「過去に何度も交代対応しているか・いないか」を把握しましょう。
とくに「交代の依頼が度重なる場合」は、利用者または担当者のどちらに課題があるのかを検討しなければいけません。
以下の2つに分けて整理してみましょう。
- 利用者さんの場合
- 担当者の場合
利用者さんの場合
度重なる対応が過去にあるのなら、「スタッフ交代はその場しのぎの対応」でしかありません。
また、担当者を変えても再び同じ問題が浮上する可能性があります。
ここで、利用者さんの環境に問題解決の糸口がないかを考えてください。
病気や障害による心身上のストレス、あるいは家族とのストレスが事業所やスタッフに向けられているかもしれません。
この場合、ヘルパー交代より「利用者さんが抱く本当の問題」の解決が優先事項です。
担当者の場合
一方で、担当者に対する交代依頼が、「利用者さんに関わらず」頻発している場合もあります。
こちらの場合、「交代を依頼された原因」は事業所、もしくはヘルパー本人、あるいは両者に問題があるかもしれません。
サービス提供者に問題があるなら、以下の点を見直してみましょう。
- ヘルパーの知識・技術は十分か
- ヘルパーの言動(接遇)に適切か
- 担当者が犯罪を犯していないか(体罰・言葉の暴力・窃盗など)
- 計画書に不備・不足はないか
- 事業所の方針は満足か(移動時間・担当者の割振り・人員・給与体系など)
上記のような内容を整理し、問題を丁寧に分析してください。
ステップ3.従業員の人数を考える
最後に、ヘルパーの交代に対応する場合は、事業所の人員を考える必要があります。
介護業界は、一般的に人材不足が課題とされる業界です。
「交代に対応する」と結論を出す前に、対応できる人員がいるかどうかを検討してください。
人員を考えずに対応すると、スタッフの負担が増大します。
訪問時間の変更や移動時間の短縮、強引な訪問件数の増加など、過剰な業務はスタッフの心身を疲弊させる可能性も捨てきれません。
サービスの質が低下すれば、結果的に次のクレーム・苦情を生み出してしまうため悪循環です。
対応できるなら真摯に対応し、難しい場合は利用者・家族・ケアマネジャーに相談して猶予をもらう対応も必要です。
2.訪問介護ヘルパーの交代につながるトラブル
訪問介護において、ヘルパーの交代を求められた事例はたくさんあります。
同様のケースは、「業界のインターネット掲示板」や「スタッフミーティング」などでも見かけるでしょう。
ここでは、以下3つのケースを事例として検討します。
- 利用者さんの介護拒否があるケース
- ヘルパーが利用者さんと合わないと訴えるケース
- 利用者さんとの関係が密になりすぎるケース
事例の検討は、現場でも役立つ知識になるので、ぜひ参考にしてください。
トラブル1.利用者さんの介護拒否
利用者さんが介護を拒否し、ヘルパー交代の訴えとなるケースがあります。
この場合は、ヘルパー交代に加えて「訪問介護のサービス自体をやめたい」という訴えが重なります。
このとき、まずは利用者さんの気持ちを受け止めてください。
年齢とともに体力が落ち、また病気を患って「訪問介護に頼らざるを得ない」利用者さんの気持ちを考えます。
体の痛み・動きづらさがあり、また他人の世話を受けているので、「自分の思いどおりの生活ができない」ことは大きなストレスです。
苛立ちや不安、悲しみ、寂しさなど、吐け口のないストレスをヘルパーさんにぶつけているのかもしれません。
介護拒否がある場合、「できることは自分でやってもらう」方策を、検討してみてはいかがでしょうか。
掃除や洗濯を一緒におこなって、ヘルパーがお手伝いする形もよいでしょう。
「すべて自分でやるのは難しいけど、少し介助があればできる」という対応は、利用者さんの自信や意欲にもつながります。
トラブル2.利用者さんと合わない・行きたくない
クレーム・苦情、利用者さん要望などが増えると、担当者の言動にも少なからず影響があるものです。
利用者さんに対し、感情が表に出てしまう場面もあるでしょう。
利用者さんとの関わりのなかで、「どこに問題があるのか」を考えてみてください。
スタッフの経験や知識・技術に課題があれば、上司や同僚を交えてケース・カンファレンスをするのもよいでしょう。
場合によっては、当事者だけでは解決が難しい問題かもしれません。
そのときは、事業所やケアマネジャーの介入が不可欠です。
訪問介護は、人と人が直接関わる仕事なので、当人同士の合う・合わないといった事例は起こりえます。
利用者さんとの関係にストレスを感じているのなら、上司や同僚に相談してみてください。
▼利用者さんとの関係についての解決策として、以下の記事が参考になります
>>訪問介護で嫌な利用者さんと感じたときの解決策
トラブル3.利用者さんと親密すぎる
利用者さんとの関係が過度に近くなる問題は、介護や医療の場面では起こりえる課題です。
訪問介護は利用者さんとの信頼関係が不可欠なので、良好な人間関係は理想的な関係ともいえます。
しかし、プロとして利用者さんと適切な距離感は保つ必要があるでしょう。
普段の会話でも、仕事とプライベートの線引きをしてください。
利用者さんからの質問に対し、曖昧な返答は失礼だと思うかもしれません。
ただし、あまりにプライベートに踏み込んだ質問に対し、返答を濁すのは必要なテクニックです。
3.訪問介護ヘルパーの担当交代における対処法
担当者の交代を依頼されたときの対処法を見ていきます。
前提として、「事業所としての対応方針を固めておく」必要があります。
スタッフ個人に対応を一任するのは危険です。「前はこうしてくれた」「前の担当者はこう言った」など、後々のトラブルとなります。
- 普段の訪問介護サービスを見直す
- 交代に応じるときの基準を明確にする
- ケアプランを見直す
上記を踏まえ、それぞれのポイントに分けて確認しましょう。
対処1.普段の訪問介護を見直す
担当者の交代を求められたとき、まずは業務の見直しが必要です。
訪問介護員は、「自分に問題がなかったか」と、業務を見つめる態度は不可欠となります。
トラブルの原因を相手のものとせず、一度は「自分に非があるのでは」と自問する作業は大切なことです。
「言葉遣い」「態度」「利用者さんの要望に沿うサービスが提供できているか」など、日頃のサービス内容を確認してください。
対処2.線引きを明確にする
対応の可否について、事前に明確な基準を決めて、対応の線引きも大切です。
サービス提供者として、可能な限り利用者さんの要望に応えるのが役割です。
しかし、利用者さんの要望のなかには、「介護保険の制度上無理な訴え」があるかもしれません。
たとえば、掃除を例にとって考えてみましょう。
訪問介護では「原則として家族との共有部分は掃除できない」決まりがあります。
このとき、ヘルパーとしては制度の決まりを守って掃除しないわけですが、利用者さんは不満を抱いているかもしれません。
「決まりだからできない」とだけ伝えても、利用者さんは納得できません。
ここで、「できない理由」をきちんと伝えます。利用者さんの不満の根本にある問題を解消すれば、「担当者交代の問題」も解決します。
参照:川崎市介護支援専門員連絡会『訪問介護ケアマネジメントツール』p11
対処3.ケアプランの再設定
ケアプランのズレが、利用者さんの不満になっているケースもあります。
訪問介護はケアプランに沿って行うため、プラン外のサービスはできません。
利用者さんの状態は少しずつ変化しますので、状態に合わせてケアプランの変更が必要です。
「ケアプランの見直しが必要」と感じることがあれば、ケアマネジャーに連絡して再設定を検討しましょう。
ケアマネジャーにとっても現場の声は有益です。積極的に相談してみてください。
訪問介護ヘルパーの交代に関するQ&A
ヘルパーの交代依頼に関する疑問・質問のなかから、一部をピックアップして紹介します。
- わがままな利用者さんと感じたときはどうすべき?
- 訪問介護のクレーム対応方法は?
- 困難な利用者さんへの対処方法が知りたい
ヘルパー交代の原因が利用者の不満であるとき、担当者は複雑な思いをするものです。担当者や事業所は「利用者さんの気持ちに答えたい」と思うでしょう。
苦情やクレームにも真摯に対応したいと考えます。しかし、具体的にどう対応すべきかは難しいものです。
それぞれ確認して、今後の対応に役立ててください。
Q1.わがままな利用者さんと感じたときはどうすべき?
A.まずは、わがままの根本にある問題を探ることが重要です。「わがまま」というのは解釈する人の立場によって違います。
ヘルパーの視点では「わがまま」だと思える内容でも、利用者さんにとっては切実な問題かもしれません。
たとえば、訪問介護では「家族との共有部分」は掃除できません。
何度も説明しているのに利用者さんの依頼が続けば、ヘルパーにとって「わがまま」に思えるでしょう。
しかし、掃除の原則には以下の例外があります。
- 同居家族がいても、その同居者が要介護者である場合
- 同居者はいても不在で、事実上は共有しているといえない場合
やむをえない理由があれば、共有部分の掃除が認められるケースがあります。
利用者さんの本来の気持ちを見過ごさないためにも、まずは「わがまま」の根っこにある思いに耳を傾けてみましょう。
参照:川崎市介護支援専門員連絡会『訪問介護ケアマネジメントツール』p11
Q2.訪問介護のクレーム対応方法は?
A.ひとりで対応するより、チームで対応しましょう。担当者が個人的にクレームを受けたとしても同様です。
クレームがあったときは誰しもが慌てますが、訪問介護は担当者だけの仕事ではありません。
担当者はひとりのプロであり、同時に事業所を背負うチームの一員でもあります。
その場で担当者個人の意見を述べるより、事業所に一度持ち帰って経営者や上司と相談してください。
クレームに対しては、「記録」「内容の分析」「再発防止の検討」「ケアマネジャーへの報告」などを通じて対応しなければなりません。
さらに、事業所としての方針もあります。
利用者と担当者の双方を守る意味で、対応はチームで行うべきでしょう。
さらに詳しい内容については訪問介護のクレーマー対処法!正しく対処してトラブルを回避しようにて解説しています。参考にしてみてはいかがでしょうか。
Q3.困難な利用者さんへの対処方法が知りたい
A.「難しいと思う理由」を明確にし、さらに仲間に相談しましょう。困難だと感じる利用者さんであれば、対応はいったん事務所に持ち帰るのが得策です。
その場しのぎで対応すると、関係が悪くなる場合があります。
時間と距離をおいた後、「困難だ」と思う理由を考えてみましょう。
「あの利用者さんは難しい」と感じたとき、何がそう思うのか自分なりに問題点を分析します。
たとえば、以下の事柄を整理してみてください。
- 利用者さんの要望が細かすぎて対応できない
- ケアプラン外の内容を頼まれる
- 本人と家族のニーズが異なる
- 利用者さんからセクハラ・パワハラを受けている
利用者さんとの関わりのなかで難しさを感じたら、まず理由を明確にします。
原因が明確になったら、次は言葉にして上司や同僚などに相談してみましょう。
事業所によっては、難しい事例をケース・カンファレンスとして共有する場合もあります。
経験豊富なスタッフからの助言やアドバイスがあれば、それは貴重な学びとなります。
また、あなたの悩みが事業所全体の対応を考える機会になるかもしれません。
▼下記の記事も是非参考にしてみてください。
訪問ヘルパーにとって困難な利用者とは?特徴から対処法まで紹介
まとめ:担当交代は1人で悩まず相談を!
訪問介護ではさまざまなクレームが寄せられます。
そのなかで、今回は交代を求められたときの対処について解説しました。
訪問介護は、利用者さんとの関わりが深くなりやすい仕事です。
利用者さんと接する期間も長期にわたり、本人の思いをストレートにぶつけたりできる場面は少なからず経験するでしょう。
苦情・クレームがあったとしても「一方的に事業所がわるい」とは言い切れません。
こうした問題は、担当者ひとりで解決するのは難しいもの。判断を誤ってしまうと大きなトラブルにつながるリスクがあります。
ヘルパーの交代を含めて、利用者さんからの苦情やクレームは事業所全体の課題として捉える視点も重要です。