訪問介護で玄関掃除は依頼できる?サービスの範囲を確認
訪問介護とは、訪問介護員が利用者さんの自宅に訪問する介護サービスです。1対1の関係で、利用者さんごとの特性に応じてサービスを利用できます。
しかし、双方の距離感が近付きすぎるために、「訪問介護員にどこまでの仕事を依頼してよいものか」について、線引きが難しくなるという問題点があります。
なかでも、玄関掃除といった日常的におこなっている家事に関しては、依頼してもよいのか悩む人も多くいるでしょう。
そこで今回「みーつけあ」では、「訪問介護員に玄関掃除を依頼できるのか」という観点を切り口に、訪問介護員に依頼できる介護サービスの範囲について解説します。
「無理なお願いをして困らせたらどうしよう」と、不安を抱えている人にも役立つ内容になっているので、最後までご一読ください。
1.訪問介護で玄関掃除を依頼できるか確認
訪問介護員に玄関掃除を依頼できるかどうかは、利用者さんの状況次第で変わってきます。
考え方のポイントは、「玄関掃除が次の3項目に該当するかどうか」という点です。
- 直接本人の援助・支援に該当しない行為
- 訪問介護員が実施しなくても日常生活に支障が生じないと判断できる行為
- 日常的に行われる家事の範囲外の行為
3項目のいずれか1つにでも当てはまる場合には、訪問介護サービスの範囲外だと考えられます。
本記事では、よくある以下2つのパターンに分けて訪問介護員に依頼できるか説明します。
- 同居家族がいる場合は依頼できない
- 独身世帯の場合は可能
それでは、それぞれ確認しましょう。
確認事項1.同居家族がいる場合は依頼できない
利用者さんに同居家族がいる場合は、訪問介護で玄関掃除を依頼できません。
同居家族がいることで、玄関は利用者さんと同居ご家族の「共用部分」だと考えられるからです。
つまり、訪問介護員が玄関掃除を実施すると、利用者さん本人だけではなく同居家族まで介護サービスの恩恵を受けることになってしまいます。
そもそも、訪問介護サービスは利用者さん本人だけのために直接実施されるものです。
同居家族がいる場合の玄関掃除は「①直接本人の援助・支援に該当しない行為」に該当して、訪問介護員に依頼できません。
また、共用部分である玄関部分の掃除は同居家族で対応できます。
同居家族がいる場合の玄関掃除は、「②訪問介護員が実施しなくても日常生活に支障が生じないと判断できる行為」にも該当するため、訪問介護員の業務範囲を超えていると考えられます。
確認事項2.独身世帯の場合は可能
利用者さんが単身世帯で暮らしている場合、原則として訪問介護員に玄関掃除を依頼できます。
まず、「①直接本人の援助・支援に該当しない行為」についてです。単身世帯で生活しているということは、玄関は利用者さんだけの占有空間だと考えられます。
そのため、訪問介護員による玄関掃除は利用者さん本人だけが直接利益を享受できるため、「①直接本人の援助・支援に該当しない行為」には当てはまりません。
次に、「②訪問介護員が実施しなくても日常生活に支障が生じないと判断できる行為」についてはどうでしょうか。
玄関の衛生状態を保つことは、最低限の日常生活を送るうえで不可欠なことだと考えられます。玄関の掃除が行き届いていないと、居宅内が不衛生になるのは明らかでしょう。
つまり、原則として「②訪問介護員が実施しなくても日常生活に支障が生じないと判断できる行為」には該当しません。
ただし、利用者さん本人の要支援レベルが軽く、利用者さん本人が無理せず自分で玄関を掃除できる場合には、訪問介護サービスの対象外になり得る点に注意が必要です。
さらに、「③日常的に行われる家事の範囲外の行為」についてです。
一般的な感覚として、玄関掃除は日常的に行われる家事の範囲内だと考えられます。
以上をまとめると、利用者さんが単身世帯で暮らしている場合には、①②③のどれにも該当しないので、訪問介護員に玄関の掃除を依頼できることがわかります。
【補足】玄関の外掃除は訪問介護員に依頼できない
玄関の掃除とは異なり、”玄関の外掃除”はどのような状況でも原則として訪問介護員の対応範囲外だという点にご注意ください。
なぜなら、訪問介護サービスは「居宅内での日常生活」を対象にした支援だからです。
たとえば、後述するように、訪問介護員に庭掃除や植木の剪定を依頼できないのと同じ考え方に基づき、玄関の”外掃除”は依頼できません。
なお、訪問介護事業者が独自支援サービスとして、玄関の外掃除サービスまで提供している場合は対応してもらえます。
ただし、「介護保険の対象外=全額自己負担」となりますので、注意してください。
2.訪問介護でできること・できないことの違い
訪問介護員の姿を目にすると、「お願いすれば何でもやってくれるのでは?」と勘違いしてしまう人も多くいます。
しかし、訪問介護員は利用者さん自身をケアするためにサービスを提供しています。いわゆる「家政婦」ではない、ということを忘れてはいけません。
あくまでも、訪問介護制度の趣旨に合致したサービスしか依頼できないのが現状です。
利用者さんもこの点を充分に理解したうえで、ホームヘルパーからサービスを受ける必要があります。
訪問介護員にお願いできるサービスの範囲を明確にするために、以下の2つを説明します。
- 訪問介護で依頼できるサービス内容
- 訪問介護で依頼できないサービス
それぞれ、具体例を確認しましょう。
内容1.訪問介護で依頼できるサービス内容
訪問介護で依頼できるサービス内容は、身体介護・生活援助・通院介助の3種類に区分できます。
- 身体介護:利用者さんの身体に直接触れるサービス。専門知識・スキルを活用して日常生活を支援し、意欲向上・自立支援・重症化予防を実現することが目的。
- 生活援助:本人に代わって日常生活に必要な支援行為を提供するサービス。
- 通院介助:要介護者のみ対象の介護サービス。通院時の負担を軽減し、適切な医療行為を受けられるようにすることが目的。
それぞれの具体例については、以下の表をご参照ください。
【訪問介護で依頼できるサービス内容】
身体介護サービス | ・食事のサポート(調理、配膳、流動食の準備など) ・入浴のサポート(全身浴、部分浴) ・清拭支援(入浴困難な利用者さんの体を拭く) ・排泄のサポート(トイレ介助、おむつ交換など) ・歩行のサポート(家のなかの移動など) ・更衣のサポート(衣服の着脱行為の支援など) ・体位変換(床ずれ防止のため) ・移乗のサポート(車椅子などへの乗降支援など) ・たんの吸引、経管栄養など(一定条件を充たすホームヘルパーのみ可能) ・爪切り、耳掃除、血圧や体温の測定、目薬をさすなど(医療行為を除く) |
生活援助サービス | ・掃除(居宅内の清掃、ゴミ出しなど) ・洗濯(洗う、干す、取り込む、たたむ、収納など) ・料理(買い物、調理、配膳、洗い物など) ・薬の受け取り ・ベッドメイキング ・移動のサポート |
通院介助サービス | ・病院や施設への移動時のサポート ・病院や行政機関での手続きのサポート |
ただし、訪問介護サービスを受けるときには、利用者の要介護認定等級・要支援認定等級に応じた綿密なケアプランが作成されます。
つまり、利用者さんの状態に応じた訪問介護サービスまでしか受けられないわけです。
「訪問介護を契約したからサービス範囲内なら何でもお願いできるというわけではない」ことは覚えておきましょう。
そして、ケアプランの作要に必要な「介護・要支援」のレベルをまとめると次のとおりです。
基本的には、次の認定レベルに応じた訪問介護サービスだけを受けられるとお考えください。
要介護レベル | 状態 | 訪問介護で依頼できること (イメージ) |
要支援1 | 日常生活の動作は基本的に自分でできる。 | 食事・排泄・掃除などは自分でほとんどできるが、掃除が難しい状態。 |
要支援2 | 要支援1よりも自分でできる範囲が少ない。一部介護が必要で介護予防ケアに重点が置かれる段階。 | 食事・排泄は自分でほとんどできるが、入浴支援が必要(背中に手が届かない・浴槽をまたげないなど) |
要介護1 | 歩行や立ち上がりが不安定。 | 基本的には自分でできることが多いが、排泄時や入浴時などの衣服の着脱支援が必要。 |
要介護2 | 歩行や立ち上がりが自分でできないことが多い。 | 入浴・排泄などの一部またはすべてに介助が必要。 |
要介護3 | 歩行や立ち上がるのが困難。認知症の症状が出ている。 | 入浴・排泄などの基本的行為全般に介助を要する。認知症が原因でできないことも増える段階。 |
要介護4 | 歩行や立ち上がるのがほぼ不可能に近い。コミュニケーション能力や理解力の低下が見られる。 | 全般的な身体介護が不可欠。認知症レベルに応じて徘徊・暴力・暴言に対する予防策が必要。 |
要介護5 | 寝たきりの状態で積極的な介護ケアが必要な段階。意思疎通も困難な状態。 | ひとりでできることがほとんどない状態。健康な生活を実現するために全面的な支援が必要。 |
内容2.訪問介護で依頼できないサービス
あくまでも、訪問介護員に依頼できるのは、利用者さんの日常生活維持に必要な最低限度の支援サービスだけです。
次の3つに該当するものは、訪問介護サービスの趣旨に反すると考えられます。どれだけ親切な訪問介護員にもお願いできません。
- 利用者さんの日常生活支援の趣旨に反するもの
- 利用者さん本人以外への支援行為
- 医療行為
たとえば、次のような行為は原則として訪問介護サービスの対象外になります。
【訪問介護員に依頼できないサービス】
利用者さんの日常生活支援の趣旨に反するもの | ・家具の移動、修理、模様替え ・大掃除 ・洗車 ・窓ガラスの清掃、床のワックスがけ ・草むしりや植木の剪定 ・ペットの散歩や通院 ・金銭の管理 ・お墓参り、お正月やお盆の準備 ・趣味や散歩の外出支援など |
利用者さん本人以外への支援行為 | ・利用者さん家族の食事の準備や部屋の清掃 ・子どもや孫の世話など |
医療行為 | ・点滴 ・インスリン注射 ・床ずれの処置 ・摘便 ・血糖測定 ・血圧測定 ・口腔ケア(歯周病等の治療を要するもの)など |
※以下の内部リンク記事を参照
なお、ホームヘルパーに依頼できないサービスについては、「訪問介護ヘルパーに頼めることって?できること・できないことを解説」で詳しく紹介しているので、参考にしてください。
3.訪問介護で掃除の依頼は本当に必要?
訪問介護員に玄関掃除を依頼するときには、「本当に玄関掃除をお願いする必要があるのか?」を、もう一度考えてみましょう。
- 「いつも親切にしてくれるからお願いすれば何でも対応してくれそう」
- 「ついでに玄関掃除をお願いするぐらい許されるのでは?」
このように、「このホームヘルパーさんになら玄関掃除をお願いしてもよさそう」という気持ちになることもあるでしょう。
しかし、訪問介護サービスは費用負担の大部分が税金によって賄われるものです。
介護保険制度の適用を受ける以上は、正しいルールに則ってサービスを受けなければいけません。
こうした背景があるため、玄関掃除のお願いが「訪問介護のルールの範囲内なのか」を考え直すことは大切です。
なお、玄関掃除といった清掃業務を利用者さん自身で行える場合には、玄関掃除が介護予防につながるというメリットにも目を向けるべきでしょう。
4.ケアプランに入らない場合は自費サービスも検討
利用者さんに同居家族がいれば、訪問介護制度の範疇では生活援助サービスを受けられません。
また、利用者さんの要支援・要介護認定等級次第では、玄関掃除がケアプランに入らない可能性もあるでしょう。
しかし、利用者さんやご家族も多様な事情を抱えているはずです。
「ケアプランに入らない用事は絶対に依頼できない」という考え方では、結局利用者さんの支援に繋がらないというリスクが発生します。
そこで、ケアプランに入らない玄関掃除をどうしても第三者に依頼したい場合には、「介護保険外サービス」の利用を検討しましょう。
介護保険外サービスとは、介護保険サービスの範囲外になる部分を全額自己負担で依頼できる自費サービスです。
民間の事業所がオリジナルサービスプランを設定する場合や、各自治体が非営利目的で独自支援サービスを提供する場合など、多様な介護保険外サービスが増えてきています。
ケアプランの範囲外のサービスを依頼したいと希望するのなら、ケアマネージャーに相談のうえ、次のような選択肢をご検討ください。
- 事業所が独自に提供する介護保険外サービス
- 民間企業(警備会社・清掃会社・家事代行サービス会社など)の独自サービス
- お住まいの自治体が提供する「介護予防・日常生活支援総合事業」
- 社会福祉協議会・シルバー人材センターの有償サービス
現在、地域包括ケアシステムの実現に向けて、民間企業・NPO団体・自治体が一丸となって混合介護の普及に尽力しています。
お住まいの地域でも、数多くの団体が利用者さんの生活支援に役立つサービスを展開しているはずです。契約中の訪問介護員や、事業所まで直接ご確認ください。
▼自費サービスに関しては、こちらの記事もご参考ください。
>>介護ヘルパーは自費で依頼できる?介護保険との違いを徹底解説!
5.訪問介護で玄関掃除を依頼したい人が気になる疑問に回答
「訪問介護員に何を依頼できるのか」
「訪問介護サービスでどのようなサービスを受けられるのか」
こうした根本的な疑問を抱えている人のために、訪問介護サービスとはどのようなものなのか?について、わかりやすく解説します。
これから訪問介護サービスの依頼を検討している人の多くが抱く疑問は、次の3つです。
- 訪問介護に依頼する流れは?
- 要介護1の場合は訪問介護を利用できる?
- 生活援助と家事援助の違いとは?
それぞれの訪問介護の実態について、具体的にみていきましょう。
Q1.訪問介護に依頼する流れは?
A.訪問介護サービスを依頼するためには、次の流れで事業所との間で手続きを進めます。
1.要介護認定・要支援認定の申請 | ・医療機関、病院、自治体の介護保険窓口へ申請 ・必要書類は市役所等で入手可能 |
2.自治体の調査員による認定調査 | ・調査員による調査と主治医や指定医による意見書の内容で「一次判定」 ・介護認定審査会が「二次判定」 |
3.要介護認定・要支援認定の決定 | ・申請から等級の認定までは原則30日以内 ・「要支援1・2」「要介護1~5」「非該当」の8区分のうちいずれかに決定 ・認定の有効期間は6ヶ月(更新申請は12ヶ月) ・症状等の変化により認定等級の変更可能 |
4.介護サービス計画書(ケアプラン)の作成 | ・ケアマネージャーがケアプランを作成 ・利用者さん本人だけではなく家族にも聞き取り ・要介護なら「居宅介護支援業者」に、要支援なら「地域包括支援センター」にケアプラン作成を依頼 |
5.訪問介護契約の締結、介護サービスの開始 | ・事業所との間で訪問介護契約を締結(契約書・重要事項説明書は手渡してもらう) ・原則としてケアプランの内容どおりの支援(事情変更が生じたなら事業所に別途相談を) |
訪問介護サービスを依頼するまでの流れは、こうしてみると複雑に感じるかもしれません。
しかし、自治体の窓口や事業所の担当者が丁寧にアドバイスしてくれるので、必要な物を用意するだけで心配はありません。
住み慣れた環境で健康な日々を送れるので、少しでも訪問介護サービスの利用を検討しているのなら、お気軽に担当部署までご相談ください。
なお、訪問介護を依頼する流れや必要書類などについては、「介護ヘルパーを依頼するまでの流れとは?各サービスの料金や種類についても紹介」で詳しく解説しています。
Q2.要介護1の場合は訪問介護を利用できる?
A.要介護1の段階とは、日常生活のほとんどのことは自分でできる状態のことです。
要支援段階よりもサービスへの需要度は高いものの、要介護認定のなかではもっとも支援レベルが軽いです。
そのため、「要介護1ならわざわざ訪問介護を利用する必要がないのでは?」と疑問を抱くのも当然でしょう。
実際に、要介護1の約60%が「必要なときに手を借りる程度」で問題なく日常生活を送れると回答しています(「2019年国民生活基礎調査」厚生労働省HP)。
もっとも、要介護1の人が単身で暮らしている(または、同居家族の都合で日常的なケアが難しい等)場合に、一切の介護サービスを受けないとなるとリスクが出てしまいます。
たとえば、認知症の悪化が原因で介護レベルが重くなったり、日常生活のなかで突発的な事故に見舞われたりなどです。
こうした背景を考えると、要介護1でも必要な訪問介護サービスを受けられるように制度設計されているのが実情です。
なお、要介護1の場合の区分支給限度額は167,650円であること、2時間ルールが設定されていることなど、訪問介護を利用する際には一定の注意事項が存在します。
詳しくは、「介護ヘルパーを利用すれば要介護1でも暮らせる?要介護について解説」を参考にしてください。
Q3.生活援助と家事援助の違いは?
A.訪問介護サービスで依頼できることは、次の3点に含まれる内容です。
- 身体介護サービス
- 生活支援サービス
- 通院介助サービス
「生活援助」とは、生活支援サービスのことです。利用者さんの身体に直接触れる介護行為ではなく、かつ、利用者さんの日常生活に必要な支援を対象とします。
そして、「家事援助」とは、生活援助に含まれるものです。
さまざまな生活援助サービスのうち、利用者さんのために調理・洗濯する行為などが家事援助に当たります(場合によっては玄関の掃除も含まれます)。
まとめ:依頼前に介護予防に必要な項目を考えよう
訪問介護サービスの依頼を検討している利用者さん・ご家族の多くは、「困っていることが増えてきたから支援して欲しい」という動機から訪問介護サービスについて調べていることでしょう。
しかし、訪問介護の目的は、「現在の日常生活を送るうえで利用者さんが困っていることをサポートする」だけではありません。
さらに先のステップとして、「要介護レベルが重くなるのを防ぐ」という、介護予防の目的も含まれています。
つまり、訪問介護サービスとは、利用者さんの今後の人生をよりよいものにするために活用するべきサービスです。
玄関掃除を含め、外部に依頼するべきこと・まだ自分でできることをしっかりと区別して、事業所と丁寧に相談をしながら、サービス内容を決めていきましょう。