訪問介護の給料は上がる?現状や政府の政策と上げるための方法を解説
世界でも有数の高齢化社会である日本では、介護の仕事は今後ますます需要が高まるとされています。
しかし、「訪問介護は重労働であるにもかかわらず、給料が安い」というイメージがあることも事実です。
一般的な企業に比べて給料が低い事業所もあるため、2022年1月には岸田内閣も政策の目玉として、介護職の処遇改善を重要課題としました。
今回「みーつけあ」では、訪問介護の給料が今後どれだけ上がるのかについて解説します。
また、給料を上げる方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
訪問介護をやりがいのあるものにするためにも、積極的に目標を立てて実行しましょう。
1.訪問介護員の給料は今後上がる?現状から確認
今後、需要が高まることも予想される訪問介護ですが、給料が低いというイメージは根強いものがあります。
現状の訪問介護の給料は、本当に低いのでしょうか。
まずは、訪問介護の給料に関わる現状を、以下の3点で確認しましょう。
- 訪問介護員(ホームヘルパー)の給料の現状
- 介護職員の給料決定の仕組み
- 訪問介護の求人倍率は高止まり
厚生労働省が公表している資料に基づいて解説するので、現状の把握に役立ててください。
現状1.訪問介護員(ホームヘルパー)の給料の現状
厚生労働省が令和2年に行った調査によると、常勤の介護職員における平均の給与は「 315,850円」となっています。
訪問介護員(ホームヘルパー)に限定した場合、 「306,760円」です。
また、平成30年に実施された介護産業計と比較すると、賞与込みの給料が366,000円であるのに対して、261,000円と10万円以上の差があることがわかります。
介護全体の賃金状況から見ると、訪問介護の給料は低いようです。
訪問介護の給料が低く抑えられてきた理由としては、「介護職は誰でもできる仕事」というイメージが根強く、専門性を理解されなかった背景があります。
さらに、介護職員の給料決定の仕組みも関係するので、続けて確認しましょう。
現状2.介護職員の給料決定の仕組み
介護職員の給料は、元をたどると介護保険として国民が支払う税金から支払われています。
事業所がサービスを提供して、対価を介護報酬として受け取るといった形です。
サービス事業者が介護保険被保険者に介護サービスを提供した場合、報酬は以下の形で支払われます。
- 被保険者は介護報酬の1割を支払う
- 市町村が介護報酬の9割を介護給付費として支払う
介護報酬は、社会保障審議会(介護旧費分科会)で審議されて、厚生労働大臣が決定します。
介護報酬には、被保険者の要介護状態の区分によって支給額に限度があります。
そのため、事業所が介護職員の給料を上げようとしても、個別に対処するのは難しいです。
ここでは、目黒区の限度額を例として確認してみましょう。
出典:区分支給限度額(介護保険から給付される一か月あたりの上限額)2021年10月1日現在 – 目黒区
厚生労働省は、支給額に限度を設ける理由に、以下2つの特性が関係するとしています。
- 介護サービスは生活に密接に関連して利用に歯止めが利きにくい
- 同じ要介護度であっても利用者のニーズが多様
介護報酬は公定価格によって決定されるため、変更が難しいという現状があります。
現状3.訪問介護の求人倍率は高止まり
介護職の処遇改善が必要なことは、常に求人倍率が高いことや離職率が高いことから見ても明らかです。
全職業の有効求人倍率が、もっとも高いときで1.06倍だったのに対して、介護分野の有効求人倍率は2.31倍です。
介護分野の有効求人倍率は、常に高止まりであることがわかります。
求人と関係する勤続年数をみると、福祉分野は長期にわたって勤務し続ける人材が多い傾向です。
しかし、介護職員は、35歳以上の年齢で勤続8年ほどで離職する結果がグラフに現れています。
このような状況から、政府の検討会でも「介護職員の増加や離職率を抑えるためには、処遇改善に積極的でなければならない」との意見も多数出てくるようになりました。
そのため、低いといわれる介護職員の給料は、年々上昇して全産業平均に少しずつ近づいています。
2.訪問介護員の給料が上がる処遇改善政策
訪問介護員の給料が上がる政策として、以下の3つがあります。
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
- 介護士等の賃金アップ施策
政策からは、政府が介護職員の処遇を改善するために、今後の給料を含めた環境の整備を進めていることがわかります。
政策の内容を理解できると、「今後どのような働き方を目指すべきか」といった方針も立てやすくなるはずです。
それぞれの内容を、詳しく確認しましょう。
施策1.介護職員処遇改善加算
2012年に設置された介護職員処遇改善加算は、事業所が介護職員のキャリアアップや職場環境改善といった改善のために設けられました。
政府が指定する要件を満たす事業に対して、介護職員の給与を上げるための介護報酬加算を付加する制度です。
ただし、すべての介護事業所が同じ介護報酬を受け取れるわけではありません。
介護事業所が満たした要件のレベルによって、「加算Ⅰ」から「加算Ⅴ」までの5段階に分かれます。
加算内容 | 条件 | 介護職員1人当たりの加算額 |
加算Ⅰ | キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲすべてに該当 職場環境要件満たしている | 月額37,000円相当 |
加算Ⅱ | キャリアパス要件ⅠとⅡに該当 職場環境要件を満たしている | 月額27,000円相当 |
加算Ⅲ | キャリアパス要件ⅠまたはⅡに該当 職場環境要件を満たしている | 月額15,000円相当 |
加算Ⅳ | キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱに該当 職場環境要件のどれかを満たしている | 月額13,000円相当 |
加算Ⅴ | キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ 職場環境要件 上記をどれも満たしていない | 月額12,000円相当 |
参考:介護職員処遇改善加算
また、加算Ⅳと加算Ⅴは経過措置として設けられたもので、2022年3月末で完全に廃止されます。
2022年4月からの加算の対象は、加算I〜Ⅲのみです。
施策2.介護従事者等特定処遇改善加算
介護職員等特定処遇改善加算は、職歴の長い職員や資格・技能を持つ職員の処遇を改善する目的で設けられました。
介護職員処遇改善加算に、「上乗せされる形」で支給されます。
算定条件は、以下のいずれかに該当するように設定されています。
- 勤続年数10年以上の介護福祉士は月平均8万円相当の給料上昇
- 給料が役職者を除く全産業平均の水準に設定する
ただし、柔軟な運用が認められているため、他の職員の給料アップにも利用されます。
事業所の状況によっては、事業を開始したばかりだったり、小規模で資格を持つ人材が不足していたりと、職員の給料を上げることが難しい事情もあります。
そのため、職員の給料上昇を優先できるように、事業者の柔軟な運用を認めるという条件緩和が施されました。
介護従事者等特定処遇改善加算が介護職員処遇改善加算に加わることで、2020年(令和2年)の介護職員1人当たりの給料は、2019年(平成31年)2月に比べて18,120円上がっています。
出典:厚生労働省 令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要
施策3.介護士等の賃金アップ施策
2021年に誕生した岸田政権では、基本方針に「新しい資本主義の実現」を掲げました。
新しい資本主義とは、「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとして、貧富の差による分断を防ぐため「成長と分配の好循環」を推し進めるという内容です。
そのなかには、介護報酬も含めた公定価格の抜本的見直しも含まれます。
令和3年の公的価格評価検討委員会では、2022年2月から福祉職員を対象に収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるとしました。
3.訪問介護員の給料はどれくらい上がる?
介護士全般の給料上昇として、処遇改善加算や公定価格の改定がありました。
給料は上がる方向ですが、訪問介護員の場合は「どのくらい上がるの?」と疑問を感じる人も多いでしょう。
訪問介護員の給料に関して、以下の内容で解説します。
- 介護職員処遇改善加算の計算方法
- 給料が上がらないこともある
それぞれ確認しましょう。
介護職員処遇改善加算の計算方法
各事業所の処遇改善加算は、「利用回数×提供サービスごとの単位数×処遇改善加算率」で求められます。
たとえば、1か月に6回身体介護を行っている場合は、約1,000単位です。
訪問介護の加算率は13.7%のため、1,000×13.7%=137単位が加算されます。
端数が出た場合は、小数点以下を四捨五入した値で加算する方式です。
処遇改善加算を事業所が取得している場合、必ず給与明細や等級表に記載されます。
「どのくらいの加算があるのか」は、確認しておきましょう。
毎月の給料明細に含まれていない場合は、賞与に含まれている可能性もあります。
給料が上がらないこともある
処遇改善加算は、事業所の裁量権が認められています。
そのため、加算の対象とならない勤続年数や資格状況の場合は、給料が変わらない可能性もあります。
たとえば、介護職員以外や、直接介護に携わらない以下のような人は、加算されません。
- サービス管理者
- ケアマネジャー
- 栄養士
- 理学療法士
支援相談員や看護師の資格を持っていても、現場で介護に携わる場合は加算が認められています。
もし、加算されていない場合は事業所に確認してください。
4.訪問介護員が給料を上げるための方法
訪問介護員として、給料を上げるためには何をすべきでしょうか。
ここでは、5つの方法を紹介します。
- 資格を取得する
- キャリアアップを目指す
- 勤続年数を重ねる
- 処遇改善手当の多い職場に転職
- 独立開業
どの方法が自分に合っているか確認するために、それぞれの内容を確認してください。
簡単な方法から、順番に解説していきます。
方法1.資格を習得する
訪問介護に関する資格を取得すると、資格手当が支給される事業所は多いです。
生活援助専任で働いている場合は、上位資格となる以下のような資格の取得を目指してみましょう。
- 初任者研修
- 実務者研修
- 介護福祉士
初任者研修で手当がつくケースは稀ですが、身体介護も担当できることで給料アップにつながります。
実務者研修や介護福祉士を取得した場合の給料差は、平均で1〜2万円程です。
出典:厚生労働省 平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要
▼詳しい資格の取得方法は、以下の記事が参考になります。
>>介護ヘルパーの資格の取り方について|費用や年齢制限は?
方法2.キャリアアップを目指す
訪問介護では、管理職や関わりの深い別の職種へのキャリアアップが目指せます。
たとえば、別の職種では以下のようなキャリアアップ先を検討できるでしょう。
- 生活相談員
- ケアマネジャー
- 看護師
- 理学療法士
訪問介護に継続して携わりたい場合は、生活相談員やケアマネジャーを目指すのが主流です。
また、看護師や理学療法士として介護分野に携わるといった選択肢もあります。
方法3.勤続年数を重ねる
勤続年数で昇給が設定されている事業所では、長く働くことで給料アップが見込めます。
年に1度の昇給額は、3,000円程度と低いこともあるかもしれません。
しかし、年間で考えると単純計算で3.6万円ずつ年収が上がります。
10年働けば、昇給だけで年収が36万円も上昇する計算です。
1つの事業所で継続して働くことが条件となるため、転職を考えていない場合には勤続年数を重ねる選択肢もあります。
方法4.処遇改善手当の多い職場に転職
処遇改善は、事業所の規模や裁量によって、職員への還元具合が変わります。
そのため、現状の加算手当が少ない場合は、「別の職場に転職する」というのも、給料をあげるためにできる1つの手段です。
同じくらいの労働条件でも、手当が多い事業所なら昇給まで期待できます。
求人を探す際は、以下のようなポイントを参考に選びましょう。
- 年収に加算手当が含まれているか
- 賞与額が記載されているか
- 賞与に加算が含まれているか
月給だけで検索すると、「以前よりも給料が低くなってしまった」といった失敗をしてしまうかもしれません。
給料アップ目的の転職では、処遇改善加算まで細かく見て、求人を吟味してください。
方法5.独立開業
独立して、給料ではなく自分の力で稼ぐ方法もあります。
訪問介護の開業は、以下のような手段が主流です。
- 法人格を取得して訪問介護事業所を立ち上げる
- 登録ヘルパーとして個人事業主になる
事業所を立ち上げる場合は、開設資金や従業員を確保しなければいけません。
しかし、理想の介護を提供したかったり、訪問介護に対する思いが強かったりする人にはおすすめの方法です。
登録ヘルパーは、働いた分だけの給料となるため、時間を取れない場合は年収が下がります。
夜勤専従や複数の事業所を掛け持ちしたい場合には、年収が上がる可能性もある働き方です。
▼独立開業に関しては、以下の記事も参考になります。
>>【個人事業主・起業】介護ヘルパーが会社に依存せずに自由に働く方法【登録ヘルパーや個人契約についても!】
まとめ:訪問介護でやりがいと給料アップを両立しよう
今回「みーつけあ」では、訪問介護の給料アップに関して解説しました。
日本の高齢化から、今後の処遇改善が政府で検討されている内容も見て取れましたね。
給料が上がると分かれば、少し安心した人もいるのではないでしょうか。
今より給料を意欲的に増やしたい人は、紹介した給料アップの方法から自分に合った選択肢に、ぜひチャレンジしてください。