訪問介護の調理マニュアルとは?作成に必要な知識とポイント
「訪問介護に調理マニュアルはないの?」
「マニュアルに書かれている内容が知りたい」
このように、訪問介護の調理マニュアルでお悩みですね。
調理マニュアルを作成するには、高齢者向けの食事に対する知識が必要です。
また、訪問介護の調理における基礎知識を持たなければ、マニュアルを理解できないかもしれません。
今回「みーつけあ」では、訪問介護の調理マニュアルについて紹介します。
食形態や配慮食についても触れますので、ぜひ参考にしてください。
1.訪問介護の調理マニュアルとは
訪問介護の調理マニュアルとは、生活援助でおこなう調理を統一するための説明書です。
一般的には、以下のような内容で作成されます。
- 栄養状態に合わせた調理
- 利用者さんの嚥下機能に合わせた調理
- 訪問介護員の調理で使えるレシピ例
- 調理時の注意点
- 保存方法の注意点 など
調理マニュアルによって、訪問介護員が過不足なくサービスを提供できます。
訪問介護員のスキルは、調理が得意だったり、苦手だったり、個人によって異なるものです。
なかでも、調理が苦手な訪問介護員は、「ケアプランで設定された時間内に業務が終わらない」といった悩みを抱えているかもしれません。
調理マニュアルで、レシピや注意点を確認すると、苦手な人でも均一なサービスを提供できます。
調理マニュアル作成の目的
調理マニュアルの目的は、栄養状態の改善や利用者さんの食生活を豊かにする目的があります。
提供する調理の質に差があると、利用者さんによっては、食事を拒否する場合があるでしょう。
食形態の知識やレシピを共有すると、調理方法のばらつきを抑えて利用者さんの食生活を支えられます。
また、調理マニュアルによって、アセスメント表から得られた情報に基づいたサービスを提供できます。
たとえば、以下のように、利用者さんの嗜好はそれぞれ異なるものです。
- 人参は小さめの切り方が好き
- 味付けは甘めが好き
- 料理は熱いものが好き
このように、調理マニュアルには、利用者さんに合わせた内容をどの訪問介護員でも対応可能とする目的もあります。
2.調理マニュアルで押さえておくべき基礎知識
調理マニュアルを作成するには、以下の3つの基礎知識が必要です。
- 高齢者は低栄養の傾向がある
- 3大栄養素
- 食事とQOLとの関係
調理マニュアルを使いこなすためにも、基礎知識は重要です。
基礎知識があれば、調理マニュアルの改善や利用者さんの状況に応じて対応できます。
それぞれの内容を理解して、適切な調理をしましょう。
その1.高齢者は低栄養の傾向がある
厚生労働省によると、85歳以上の高齢者には、低栄養の傾向が見られるとされています。
低栄養傾向の指標をBMI20以下としたとき、85歳以上の男性は17.2%が該当します。
女性は男性よりも低栄養の割合が高く、27.9%です。
厚生労働省が「低栄養状態者の割合目標」としている数値は22%であるため、高齢者の栄養状態は改善の余地があります。
訪問介護で積極的に、栄養状態を解決できるように取り組みましょう。
その2.三大栄養素
訪問介護の調理では、三大栄養素を心掛けてください。
三大栄養素は、体を動かすために必要なエネルギーとなるカロリーを摂取するために必要な以下の3種類です。
- タンパク質
- 脂質
- 炭水化物
三大栄養素を意識した調理は、利用者さんの体調を整え、栄養状態の改善にもつながるはずです。
三大栄養素の内容を以下の表にまとめました。
タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | |
体内での働き | ・体組織構成 ・体調節 | ・エネルギー源 ・細胞膜構成 | ・エネルギー源 |
不足時のリスク | 体力・免疫力低下 | 低栄養 | 疲労感・集中力減少 |
代表的な食材 | ・肉類 ・魚介類 ・大豆 ・卵白 など | ・バター ・油類 など | ・米 ・パン ・小麦粉 など |
参考:三大(五大・六大)栄養素 |e-ヘルスネット(厚生労働省)
三大栄養素は、訪問介護の基本知識として、最低限押さえておきたい内容です。
該当する食品をレシピに組み込めないか、検討してみてください。
その3.食事とQOLの関係
QOL(Quality Of Life)とは、生活の質を意味します。
利用者さんがQOLを高めて健康的な生活を送るためには、以下7つの項目をコントロールしなければいけません。
- 朝食
- 睡眠
- 喫煙
- 間食
- 飲酒
- 運動
- 体重
朝食や間食は、食事と直結する項目です。
また、飲酒や体重も食事に関係しています。
そのため、訪問介護で実施する調理介助は、生活の質を保つために大切な要素です。
食事は、ただ単に栄養を摂るための行為ではありません。
利用者さんが、「食事が楽しい」「料理がおいしい」と感じることは、心の健康につながります。
訪問介護の調理は、QOLに密接に関わるため、利用者さんが楽しく食事できるところまでケアの視点で考えましょう。
3.調理マニュアルを利用者さんに合わせるポイント
調理マニュアルは、利用者さんの性格や好みに合わせたものでなければいけません。
高齢化によって生じる、食事機能の変化は、人それぞれ異なるためです。
そのため、対応する利用者さんに合わせて、調理マニュアルを作成する必要があります。
調理マニュアルを利用者さんに合わせるポイントとして、以下3つの項目を解説します。
- 歯の欠損による咀嚼力の低下
- 嚥下反射の低下
- 唾液の分泌量の低下
高齢化によって起こりやすい、身体機能の変化をまとめました。
それぞれの内容を確認しましょう。
ポイント1.食形態
利用者さんの身体機能に合わせた食形態で、調理しましょう。
一般的に、食形態は、以下の4種類があります。
- 常食(普通食)
- 一口大
- 刻み
- ペースト
嚥下時には、咀嚼される課程で、食塊に整えられてから飲み込まれます。
そのため、食塊をつくるのが困難な人は、刻み食より一口大のほうが食べやすい場合もあります。
嚥下機能が低下すると、咀嚼を補助するために食形態の見直しが必要です。
注意点として、食形態が合っていないと感じた場合でも、訪問介護員の独断による変更はおこなわないでください。
食形態変更による、誤嚥性肺炎や窒息のリスクがあります。
ケアマネジャーやご家族に、利用者さんの変化を相談したうえで、食形態を考えましょう。
ポイント2.糖尿病食
糖尿病食とは、糖尿病患者がカロリーを摂り過ぎないように配慮する食事です。
e-ヘルスネットによると、糖尿病には1型と2型があります。
なかでも、2型糖尿病は中高年に多いです。
体型にかかわらず、肥満とやせ型の両方に該当する人がいます。
糖尿病食は、以下3点がポイントです。
- 適正エネルギーを守る
- バランスに配慮して1日3食摂る
- 食物繊維を積極的に摂る
インスリン注射を使用している利用者さんは、注射後に食事まで時間が空くと低血糖症状が出る場合もあるため、注意が必要です。
利用者さんの、注射と食事提供のタイミングに配慮しましょう。
ポイント3.高血圧食
高血圧食とは、高血圧の予防や治療に配慮した食事です。
高齢者の高血圧症には、以下2つの種類があります。
- 二次性高血圧
- 本能性高血圧
二次性高血圧とは、甲状腺等の疾患や睡眠時無呼吸症候群などにより高血圧になる状態です。
本能性高血圧は、疾患が起因ではない高血圧を指します。
原因としてよく挙げられるのは、以下の項目です。
- 塩分の摂りすぎ
- 運動不足
- 肥満 など
訪問介護の調理では、肥満にならないようにカロリーへの配慮と、塩分を抑えることがポイントとなります。
国立循環器病研究センターでは、高血圧予防として1食の食塩量を2グラム以下にする取り組みをおこなっています。
調理マニュアルに、減塩のレシピや工夫を組み込めないか検討してみてください。
ポイント4.高尿酸血症食
高尿酸血症食とは、尿酸値を抑える食事です。
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、尿酸値が7を超えた場合、尿酸値血症と診断されます。
高尿酸状態が続くと、痛風関節炎といった疾患のリスクも上昇します。
プリン体が多く含まれている食材は、以下の4つです。
- あん肝
- 白子
- 鶏レバー
- カツオ
レバー類は栄養が多いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、利用者さんの食事として適切か確認しましょう。
ポイント5.体調不良時
利用者さんが体調不良のときは、改善するまで配慮が必要です。
のどが痛く、飲み込みが困難な場合や、腸の調子が悪く食事を消化しにくい場合があります。
対応として、ご飯や具材を柔らかく調理するといった方法があります。
また、便秘症状のときは水分を多く摂るように、声を掛ける配慮が必要です。
利用者さんが水分を避ける場合は、食事で補給できないか考えてみましょう。
ゼリーやヨーグルトといった食品なら、喜んでもらえるかもしれません。
体調不良時には、利用者さんの状態に合わせた食事を提供してください。
調理マニュアルに関するQ&A
最後に、調理マニュアルについてよくある以下の疑問にQ&A方式で回答します。
- 訪問介護で調理するときの注意点は?
- 料理がまずいと言われたら?
- 調理献立やレシピの例はある?
調理が苦手な人は、とくに気になる項目となっているはずです。
ぜひ確認して、訪問介護の調理に関する知識を深めてください。
Q1.訪問介護で調理するときの注意点は?
A.調理時の注意点は、主に衛生面と安全面です。
衛生面では、食器や調理器具や食材の衛生管理がひつようとなります。
食中毒を起こさないように、賞味期限にも注意しましょう。
安全面は、衛生面と通じるところもありますが、食べるときの安全面です。
利用者さんの食べる機能に合わせた、食材の大きさや柔らかさといった配慮も必要になります。
▼調理の注意点について詳しく書いた記事がありますので、参考にご覧ください。
>>訪問介護の調理における注意点まとめ|利用者さんを守るためにできること
Q2.料理がまずいと言われたら?
A.調理マニュアルに沿って調理したか、確認しましょう。
砂糖と塩や、分量の間違いがあるかもしれません。
マニュアルに沿って作成している場合でも、利用者さんの味覚に変化があった可能性もあります。
料理がまずいといわれた場合は、好きな味を利用者さんにあらためて確認しましょう。
調理中は、どのような味つけで調理するか説明しながら作ると、利用者さんの希望を取り入れやすくなります。
▼ご飯作りについて詳しく書いた記事がありますので、参考にしてください。
>>訪問介護のご飯作りは避けられない?重視するポイントを変えてみよう
Q3.調理献立やレシピの例はある?
A.限られた訪問時間内で調理をするために、時短レシピがあります。
以下の記事では、簡単でおいしく作れる時短レシピや、利用者さんと一緒に調理できる内容も解説しています。
訪問介護の調理献立やレシピに迷ったときは、参考になるはずです。
>>訪問介護のご飯作りがストレス!レシピやポイントを覚えて楽しもう
まとめ:調理マニュアルの共有で生活支えよう
訪問介護で調理の家事援助の業務があれば、調理は避けて通れません。
食事は、利用者さんの栄養状態を保ち心も健康にする大切なものです。
調理マニュアルを読み込んで、共有することで、どの訪問介護員が調理しても差のない食事提供が求められます。
誰でも調理できて、美味しく利用者さんが満足できるマニュアルを作るために、事業所で共有して話し合いを重ねましょう。