訪問介護員が対応できるのは服薬介助のみ?医療行為のラインを解説
「薬を飲ませるケアプランだけど、本当におこなってもいいの?」
「利用者さんが苦しそうだから、薬を飲ませたけど大丈夫?」
訪問介護で働いていると、このような疑問を感じて検索する機会も多いはずです。
服薬介助は、どこまでが対応できる範囲なのか気になりますよね。
今回「みーつけあ」では、訪問介護が対応できる服薬介助のラインを解説します。
服薬介助のポイントにもふれていますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.訪問介護は服薬介助のみ対応できる?
訪問介護員の医療行為は、服薬介助のみ対応できます。
服薬介助は、厚生労働省通知で医師法第17条に対する「規制の対象とする必要がないもの」とされているためです。
しかし、その他の医療行為は対応できません。
また、服薬介助のみに対応する場合でも、以下のような注意点があります。
- 服薬介助は利用者さんかご家族からの依頼時のみ
- 医師または歯科医師から処方された内服薬のみ
- 薬剤師の服薬指導に従う
- 保健指導を遵守した医薬品のみ使用できる
利用者さんからの依頼であっても、薬の種類によっては対応できない場合もあります。
対応範囲を正しく理解するために、「そもそも服薬介助とはなにか?」を、おさらいしましょう。
そもそも服薬介助とは
服薬介助とは、利用者さんに対して服薬のお手伝いをする業務です。
業務内容には、適切に服薬をできているかの見守りや確認も含まれます。
服薬を適切におこなわないと、利用者さんの病状が進行したり、予防できなかったりといったリスクに繋がりかねません。
訪問介護で対応する機会が多い内服薬の服用タイミングも、以下のようにさまざまです。
- 食前
- 食間
- 食後
- 頓服
薬の種類によっては、効果が増幅したり、減退したりといった可能性があるため、禁止食が定められる場合もあります。
高齢で介護の必要な利用者さんが、注意事項を守って服薬するのは困難なことが多いです。
そのため、服薬介助は利用者さんの健康面を支える1つの業務として、重要な業務といえます。
2.訪問介護の服薬介助はどこまでできる?
服薬介助は、厳密には医療的ケアに含まれます。
医療行為をおこなえるのは、以下の3職種です。
- 医師
- 歯科医師
- 看護職員
では、医療従者者ではない訪問介護員は、どのような条件のもと、医薬品の使用が認められるのでしょうか。
厚生労働省の資料によると、訪問介護員の服薬介助は、以下の条件が揃っている場合にのみ認められます。
- 利用者さんの状態が安定している
- 医療従事者の専門的な判断を要さない
参考:厚生労働省 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について
本人または家族の依頼があった場合は、処方した医師及び薬剤師の指導の下であれば対応が可能です。
また、看護職員の保健指導や助言を遵守した場合にも、医薬品の使用が認められます。
内服薬以外にも、服薬介助として対応できる以下のような範囲があります。
- 皮膚に対する軟膏の塗布や湿布薬の貼り付け(褥瘡の処置以外)
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内服薬の服用(舌下錠の使用も含む)
- 肛門からの座薬挿入(出血の可能性等専門的な配慮が必要でない場合)
- 鼻粘膜への薬剤噴霧
参考:厚生労働省 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について
簡単にまとめると、状態が安定していて専門的な配慮・技術・判断を要さないものです。
3.訪問介護の服薬介助が医療行為となるケース
厚生労働省によると、医療行為となる服薬介助は、資格のある医療従事者の専門的な知識や技術が必要な行為と定められています。
いっぽう、医師・歯科医師の処方で出された内服薬を、薬剤師の指導のもと服用する場合は、医療行為になりません。
具体的に、「どのような場合は医療行為とみなされるのか」を、以下のケースに分けて確認しましょう。
- 家族から依頼された
- 利用者さんの容態が変化した
- 残薬数確認やケースへの移動
それぞれ解説するので、参考にしてください。
ケース1.家族から依頼された
利用者さんの状態や医師の指示を、明確に判断できるご家族の依頼であれば、対応可能です。
しかし、訪問介護員の判断による対応は、医療行為とみなされることを頭に入れておきましょう。
また、老々介護といった状態で、判断能力が不安な場合には服薬介助はできません。
訪問介護員に判断が求められる状況では、処方薬局の薬剤師や医師に確認しましょう。
ケース2.利用者さんの容態が変化した
利用者さんの容態が変化した場合は、訪問介護員による服薬介助をおこなえません。
緊急時には、病院と事業所に連絡してください。
利用者さんの急変は、命にかかわる危険な状態も考えられます。
医療知識や技術が必要なため、訪問介護員による介助では対応できないと考えてください。
容態が変化した場合は、安定するまで医療と連携を取り、訪問介護員での介助再開まで待つ必要があります。
ケース3.残薬数確認やケースへの移動
服薬管理は、訪問介護の範疇を超えてしまうため対応不可になります。
服薬管理とは、薬の残数を確認したり、量を調整したりといった内容のことです。
服薬管理は、利用者さんの容態や薬に関する専門的な知識が必要になります。
医療行為に含まれるため、訪問介護員での対応は不可です。
▼訪問介護の医療行為に関しては、以下の記事も参考になります。
>>介護ヘルパーの医療行為は禁止?実態やできること・できないことについて
4.訪問介護における服薬介助のポイントを確認
訪問介護で服薬介助をするときに知っておきたい、以下のポイントを紹介します。
- 薬の説明書を読み込む
- 服薬環境
- 服薬前の声掛け
- 姿勢保持
- 服薬後の確認
訪問介護は医療行為でないとされているものの、利用者さんの体調を左右する重要な業務であることには変わりありません。
健康管理に直結するケアとなるため、緊張感を持って業務にあたりましょう。
ポイント1.処方箋を読み込む
訪問介護員が薬の情報を理解することは、服薬介助で最低限必要な条件です。
薬には、使用するタイミングや服用方法が処方箋によって定められています。
また、処方箋ではなく、薬の説明書として添付される場合もあります。
大事なのは、利用者さんに処方された薬を正しく服用することです。
服薬介助で起こりやすいリスクとして、怠薬や誤薬があります。
内服薬の追加によって、服用のタイミングが変わったときに起こりやすいため、注意しましょう。
服用する薬は利用者さんが管理しますが、見間違いといった状況が考えられないか見守る意識が必要です。
ポイント2.服薬環境
利用者さんが落ちついて服薬をするためには、環境調整も必要です。
環境配慮のポイントとして、以下の点を確認してください。
- 薬や水の準備
- 利用者さんの気が散る要素を減らす
- 部屋やテーブルが清潔な状態にあるか確認
薬や水は介助に入る前に準備して、利用者さんがスムーズに飲み込めるようにしましょう。
また、利用者さんが服薬に集中できるような環境を作ることに、気を配ることも大切です。
意識が散漫になりやすい利用者さんの場合は、テレビを消すといった対策ができます。
部屋やテーブルが清潔であることも、服薬環境で意識すべきポイントです。
テーブルにものが散らかっていれば、落錠したときに見つけにくい可能性があります。
ホコリが舞っている環境なら、利用者さんが口を開けている最中に吸引するリスクもあり、衛生的ではありません。
服薬時には、環境も整えておく必要があります。
ポイント3.服薬前の声かけ
服薬介助前には、利用者さんへの声かけも忘れずにおこないましょう。
声かけには、利用者さんが薬を飲むために必要となる、身体的な準備を整える役割があります。
嚥下機能が衰えている利用者さんの場合は、誤嚥リスクがあり危険です。
利用者さんが気持ちの面でも準備できるよう、服薬前の声かけは忘れずにおこなってください。
ポイント4.姿勢保持
服薬介助では、利用者さんの頭を支えて、少し上に視線を向ける状態で姿勢を保持します。
注意したいのは、利用者さんのあごを上げすぎると、気道に水が入る可能性があることです。
利用者さんが上を向きすぎた状態は、咽頭が直線的になり、正常に飲み込むことが難しくなります。
誤嚥をおこさないように、姿勢保持は重要です。安定した姿勢保持を心がけましょう。
ポイント5.服薬後の確認
服薬後には、歯の裏や舌の奥に内服薬が残っていないか確認してください。
また、服用したはずが落錠してしまっていたり、薬殻に残っていたりするケースもあるため、確認が必要です。
日々の訪問介護の中で利用者さんと関係性を築き、無理のない確認方法を模索しましょう。
訪問介護の服薬介助に関するQ&A
最後に、訪問介護の服薬介助に関するQ&Aとして、以下の内容を解説します。
- 服薬拒否される場合の対応は?
- 服薬介助は身体介護にあてはまる?
- 服薬介助で口に入れるのは訪問介護員でもできる?
訪問介護では、服薬を苦手とする利用者さんに対応しなければいけない場面もあります。
また、訪問介護員として「身体介護を提供したい」といった要望をもつ人もいるでしょう。
服薬介助の方法として、正しい対応ができるように、それぞれの内容を確認してください。
Q1.服薬拒否される場合の対応は?
A.服薬拒否がある場合は、なぜ利用者さんが拒否するのかを考えましょう。
考えられる主な理由は、以下の3点です。
- 薬が苦い
- 薬が飲みにくい
- 認知症による拒否傾向
薬は苦かったり、飲みにくかったりなどのイメージがあるため、苦手意識をもつ利用者さんは多いです。
服薬を拒否する場合に、訪問介護員が「飲まなければならない」と無理に介助すると、利用者さんはより拒むでしょう。
訪問介護員ができる対策として、利用者さんと向き合って傾聴してみてください。
拒否する理由が明確にわかれば、事業所と共有して検討が必要です。
利用者さんのことを第一に考えて、押し付けないように配慮が必要です。
Q2.服薬介助は身体介護にあてはまる?
A.服薬介助は、2018年の老計10号によってすべての内容が身体介護に当てはまると解釈されました。
基本的には、利用者の体に触れなければ行えない介助内容が身体介護です。
しかし、服薬介助のケアプランでは、服薬の見守りも身体介護に含まれます。
ケアプランの内容が気になる場合は、事業所やケアマネジャーに確認してみてください。
Q3.服薬介助で口に入れるのは訪問介護もできる?
A.厚生労働省通知による医療行為の解釈では、薬を口に入れることに関して明記されていません。
そのため、服薬介助で薬を口に入れる対応に関しては、事業所に確認しましょう。
訪問介護員が個人で判断すると、トラブルにつながることもあります。
訪問介護サービスとして、均一な対応をおこなうために、事例を事業所で共有してください。
▼緊急時対応についても知りたい人は、以下の記事をご参考ください。
>>訪問介護員の緊急時の対応とマニュアルを理解しよう
まとめ:服薬介助の範囲を知って生活を支えよう
服薬は、利用者さんの健康管理上で大切なケアです。
しかし、訪問介護の服薬介助では、医療行為となり対応できない可能性があります。
正しい服薬介助の範囲を知って、利用者さんの生活を支えましょう。
事業所によって、服薬介助に対する見解が異なるケースも見られます。
迷ったときは、訪問介護員個人で抱えないで、チームとして検討してください。