訪問介護員の目標例|キャリアパスの概要から実践まで
訪問介護のキャリアパスの一環として、スタッフの資質向上が重視されています。
職員の質向上を図るため、個人目標を求める事業所もあるでしょう。
個人目標は自分の知識・スキルを磨くうえで、メリットがあります。
また、日々の仕事に対するモチベーション維持・向上にも有意義です。
今回「みーつけあ」では、訪問介護員の個人目標について解説します。
目標設定の考え方、やり方を例文つきで具体的にまとめたので、ぜひ参考にしてください。
1.訪問介護の目標設定が大切な3つの理由
目標設定が大切とされるのは、以下3つの理由があるからです。
- スキルの向上につながる
- キャリアの道筋が明確になる
- モチベーションを維持できる
将来の目標設定は、キャリアアップにつながります。
また、日々の仕事を有意義にするためにも目標は大切です。
目標を設定する3つの意義を見ていきましょう。
理由1.スキルの向上につながる
目標をもつことは、スキルを磨くことにつながります。
現時点での自分のスキルを把握して、不足している知識や技術がはっきりと分かるからです。
目標がなければ、目の前の作業を漠然とこなすことになり、何を修得すればよいかさえ迷ってしまいます。
訪問介護の経験が浅いときは、やるべきことが山積みです。
1つひとつ整理して、以下のように優先順位を決めましょう。
- 利用者さんの体位変換のスキル
- 痰吸引などの高度なスキル
- コミュニケーションスキル
- 安全な移乗方法を修得する
- 訪問介護の時間管理スキル
不足しているスキルの明確化により、優先すべき課題が見えてきます。
優先課題をクリアした道のりが、結果としてスキルの向上につながります。
理由2.キャリアの道筋が明確になる
目標は、自分のキャリアの見通しを立てることにつながります。
キャリアとは、1年後、3年後、あるいは10年後の自分の立ち位置を描くことです。
長期的な人生・仕事のプランを考え、経歴を磨く作業とも言えます。
経験が浅いうちは、スキルを磨くことに精一杯でも、やがて訪問介護員としての将来像を考えるときがくるでしょう。
経験を積むと、責任あるポジションに就いたり、事業所の運営を任されたりする可能性もあります。
しかし、キャリアをプランニングするには、自分なりの目標が必要です。
たとえば、以下のような現状の課題がある場合、解決に向けて取り組むことが目標となります。
- スキル面での不足があるため補う
- キャリアップに適した上位資格を取得する
- 上位職に不足している人事マネジメント能力を修得する
自分の理想像を明確にして、目標を定めてください。
目標の到達に向けて取るべき行動が見えてくるはずです。
理由3.モチベーションを維持できる
目標は、日々の仕事に対するモチベーションのエネルギー源になります。
目的意識のないルーチン作業では、モチベーションが保てません。
しかし、目標があれば、仕事の1つひとつに目的意識が芽生えます。
「仕事だからやっている」ではなく、「自分のためでもある」と思えるときに、人は大きなやりがいを感じられるものです。目標は、「モチベーション向上のための原動力」とも言えます。
2.訪問介護での目標設定のポイント
目標設定は、自分のキャリアや理想像を明確にするために欠かせません。
目標が決まれば、やるべきことの優先順位が見えてきます。
ここからは、訪問介護で目標を設定するときのポイントとして、以下3つの項目を確認しましょう。
- 理想的目標と現実的目標を明確にする
- 目標に対して期限を設定する
- キャリアプランを具現化する
漠然と大きな理想を掲げても、途中で挫折しかねません。
目標に向けた取り組みを細分化して、自分の裁量に見合った期日を決めて取り組みましょう。
ポイント1.理想と現実を明確にする
目標は、理想と現実を明確にわけて設定してください。
目標を高く設定することは大切ですが、現実とかけ離れていると達成までに時間がかかります。
途中で挫折しないように、高い理想と現実的な目標を使い分けましょう。
以下のように、目標を考えてみてください。
大目標 | 小目標(大目標の達成に必要なこと) |
自分の理想とする訪問介護事業所を立ち上げる | ・訪問介護に必要な実践的な技術 ・介護保険の制度に関する知識 ・人材マネジメント ・コミュニケーション力 ・企業経営に関するノウハウ |
大目標としては介護職としての将来的なゴールを定め、小目標としては短期で達成できる目標を設定します。
訪問介護の事業所を立ち上げるためには、訪問介護の知識・スキルが必要不可欠です。
技術だけでなく、経営や金融に関する知識も必要になります。
自分が描いた理想を叶えるために、自分にはどのような能力があり、なにが不足しているのかを把握しましょう。
ポイント2.目標に対して期限を設定する
目標には、達成期限を設けることが大事です。
期限のない目標は先送りにしていまい、未達成になる可能性があります。
たとえば、目標の期限として、資格試験を想像してみてください。
試験日から逆算して、いつまでに、どの範囲を勉強すべきかを把握できます。
期限を設けることは、具体的な取り組みの第一歩です。
大目標だけでなく、小目標のそれぞれにも明確な期限を定めましょう。
ポイント3.キャリアプランを具現化する
目標や期限を具体的に設けたら、統合して具現化しなければいけません。
具現化する方法としては、キャリア計画の表やマインドマップの作成がおすすめです。
訪問介護でのキャリアプランは、以下のように設定できます。
経験年数 | 達成すべき目標 |
1〜3年(新人) | 訪問介護員としての基本的な以下の内容を修得する ・知識 ・技術 |
3〜9年(中堅) | ・訪問介護に関わる専門知識を修得する ・主任やリーダー的な立場に昇格する |
10年以上(ベテラン・習熟期) | ・サービス責任者の職位に就く ・管理者として企業の中核に携わる ・人事や事業所全体の運営スキルを磨く |
表として作成すると、方向性と達成までの期間を視覚的に把握できます。
3.訪問介護の個人目標を記載例で確認|経験年数別
個人目標を実際に計画するとき、「分かっていても書けない」という人もいるでしょう。
ここでは、厚生労働省のキャリアパスを参考に、以下の経験年数別に個人目標をまとめています。
- 新人(1〜3年)の訪問介護員
- 中堅(3〜9年)の訪問介護員
- ベテラン(10年以上)の訪問介護員
キャリア年数ごとに、個人目標の参考例を見ていきましょう。
目標例1.新人(1〜3年)の訪問介護員
新人と呼ばれる1〜3年は、まだ実践経験が少ない時期です。
まずは、「現場に慣れること」が優先事項です。
訪問介護未経験の場合は、戸惑うことも多く、目標を考える余裕すらないかもしれません。
日々の仕事で手一杯になりがちな時期は、小目標を達成することに専念してみましょう。
新人の時期の目標例を、以下に記載しておきます。
目標例 | 達成したい資格例 | ||
利用者の顔色、仕草、口調から変化を感じ取れる観察力を身につける | ◯月まで | 初任者研修 | ◯月まで |
安全な移乗・歩行見守りの技術を身につける | ◯月まで | 実務者研修 | ◯月まで |
緊急時の対応・報告が不備なくできる(リスク管理の実践力) | ◯月まで | ー | ー |
痰吸引などの医療的な介護知識・スキルを修得する | ◯月まで | ー | ー |
3か月、6か月、1年後といった形で、ステップアップ式に目標を立てましょう。
先輩ヘルパーの仕事ぶりを観察して、実践重視の目標を立てるのもよい方法です。
目標例2.中堅(3〜9年)の訪問介護員
3~5年ほどの経験を積むと、新人ではなく中堅の訪問介護員になります。
介護の仕事をひととおり覚え、事業所内外の対応もこなせる時期です。
中堅となる時期は、訪問介護員としてだけでなく、マネジメントまで学べる期間になります。
リーダーとして、研修の企画や新人教育に携わることで、以下のような将来的なビジョンが見えてくる時期でもあるでしょう。
- 1つの事業所で足場を固める
- 転職で昇格を狙う
- 経営者として事業所を開設する
- 上位の資格を取得して活躍の場を広げる
中堅の時期の目標例としては、以下のような内容が挙げられます。
目標例 | 達成したい資格・職位例 | ||
上位資格を目指し、知識とスキルを深める | ◯月まで | ・介護福祉士 ・認定介護福祉士 ・認知症介護指導者養成研修 | ◯月まで |
介護保険の制度について知識を深める | ◯月まで | ・介護支援専門員(ケアマネジャー) | ◯月まで |
リスクマネジメントの知識と実践力を養う | ◯月まで | サービス責任者 | ◯月まで |
経営目線から、事業所運営のマネジメント力を学ぶ | ◯月まで | ー | ー |
中堅の時期は、訪問介護員としての見通しが分岐する時期でもあります。
キャリアパスが鮮明となるため、現実的な目標が見える時期ともいえるでしょう。
目標例3.ベテラン(10年以上)の訪問介護員
経験10年以上は、一般的にベテランと呼ばれる時期です。
訪問介護に必要な知識やスキルは定着して、仕事の量や質が変わるかもしれません。
介護現場の仕事だけでなく、責任あるポジションに着く可能性も高いです。
現場職にこだわる選択もありますが、管理する業務まで任されることを覚悟すべき時期でもあります。
管理業務を任されると、地域によって、関連団体や自治体との関わりも増えます。
ベテランの目標例として挙げられるのは、以下のような内容です。
目標例 | 達成したい資格・職位例 | ||
介護保険制度を熟知し、制度改正に対して、対応力を身につける | ◯月まで | ・・社会福祉士 ・管理者 | ◯月まで |
利用者満足度・事業所経営のバランスを考えた運営ができる。 | ◯月まで | ・経営者 | ◯月まで |
事業所外に向けた営業力を身につける | ◯月まで | ・施設長 | ◯月まで |
事業所外の活動を想定し、会話力や講話力を身につける | ◯月まで | ー | ー |
ベテラン期は、事業所にとって中核的な存在です。
そのため、目標は事業所全体を考えたものになるかもしれません。
しかし、自分を磨く意味でも個人目標を見失わないことが大切です。
4.訪問介護の個人目標はキャリアパスの一環
厚生労働省は、キャリアパスの一環として個人目標を推奨しています。
介護の業界では、人材不足と低賃金のサイクルが懸念されているためです。
国としては、介護に携わる人たちの処遇改善を試みつつ、個人の研鑽を期待しています。
キャリアパスは、事業所が取り組むべき課題でもあります。
しかし、事業所の働きかけだけで、介護業界の将来性を切り開くのは難しいでしょう。
そのため、訪問介護員1人ひとりが目標をもって、使命を果たすことが重要です。
個人目標は、事業所にとってプラスに働くことですが、訪問介護員自身にもメリットがあります。
自分を磨くことで、市場価値が高まるからです。
訪問介護をただの仕事ではなく、自分磨きの過程と捉えれば、日々の活動は充実したものとなるでしょう。
訪問介護の目標例に関するQ&A
最後に、訪問介護の目標例に関するQ&Aとして、以下の内容をまとめました。
- 個人目標が思いつかないときはどうする?
- 資質向上の目標例とは?
- 訪問介護の短期目標とは?
目標設定のコツやポイントが分かっていても、実際に書くとなると悩むものです。
記事の補足的な内容も含まれるので、実際に目標設定するときの参考にしてください。
Q1.個人目標が思いつかないときはどうする?
A.経験年数に応じて、「できていること」と「できていないこと」を整理してみましょう。
経験が浅いうちは先輩の動きを観察して、モデル学習してみてください。
経験者の動きや業務の取り組み方を参考に、必要な項目を書き出すと、目標が明確になります。
「どうしても思いつかない」という場合は、厚生労働省の職業能力評価基準が便利です。
職業能力評価基準は、事業所が職員の能力を把握する評価シートとして活用されています。
以下のような内容が含まれているため、「事業所が求める能力」と「自分に不足している能力」を判断できるでしょう。
- 基本的な介護スキル(移乗や排泄、食事介助など)
- 認知症ケアの知識・スキル
- スタッフの指導力・育成力 など
職員の能力を見るために使用されますが、個人でも活用できます。
必要な能力が足りていない項目を探して、目標に設定してください。
Q2.資質向上の目標例とは?
A.資質向上に向けた目標例には、人間性を含めた内容が含まれます。
人間性を含めた内容とは、以下のような内容です。
- スタッフとの信頼関係を構築できる
- スタッフの声を積極的に取り入れる
- 事業所内部・外部の人とのコミュニケーション力
- 状況の変化に対する柔軟な対応力
- 冷静・寛容な態度
参考:厚生労働省「福祉・介護人材の処遇改善事業のキャリアパス要件・定量的要件について」
スキルや知識は、目に見える能力として客観的に把握できます。
しかし、資質となると精神的な側面が含まれます。
中堅以上の訪問介護員なら、キャリアアップのためにも備えておきたい項目です。
資質向上のためには、コミュニケーションをテーマにした勉強会や、異業種交流を活用してください。
Q3.訪問介護の短期目標とは?
A.訪問介護での短期目標には、以下2つの意味合いがあります。
- 利用者に対する短期目標
- 訪問介護員自身に対する短期目標
訪問介護計画書では、必ず目標を立てなければなりません。
支援の目的を、明確にするためです。
しかし、目標達成までに段階的にクリアすべき課題があるケースもあります。
個々の小さな課題を短期目標として設定し、最終的な目標達成へとつなげるわけです。
通常、長期目標と短期目標には明確な期間が決まってはいません。
長期目標の期間を半年〜1年とし、短期を3ヶ月などとして設定します。
まとめ:訪問介護は目標を決めてキャリアを磨こう!
訪問介護では、人材育成のためにキャリアパスが推奨されています。
キャリアパスは、介護に携わる人たちの将来的な成長を期待する試みです。
また、キャリアパスの一環として、職員個人の目標が求められています。
目標は、働くうえでの目的意識や原動力になるものです。
個人目標には、事業が求める人材に成長するための目的もあります。
しかし、個人として取り組み、キャリアアップにつなげるための「重要な課題」とも捉えられるはずです。
現時点での自分の能力を把握して、よりよい訪問介護員となるために目標設定を活用しましょう。