訪問介護における給料の計算方法を解説!ソフトも活用してみよう
訪問介護の事業所にとって、訪問サービスと同様に大切な業務が経理です。
一般的に、会計は経理の知識があれば対応できます。しかし、従業員の雇用形態や賃金体系、さらに介護保険法の改正は、業界独自の項目で考慮が必要です。
また、訪問介護の雇用形態・賃金体系は多様で、人材の流動性が高い業界です。人材が入れ替わるごとに、給与データを把握しなければいけません。
そこで今回「みーつけあ」では、訪問介護の給料計算の考え方について解説します。
煩雑になりやすい会計処理、そのミスを防ぐためには給料計算の考慮事項の把握が大切です。
また、給料計算の効率化を図るために役立つ会計ソフトの紹介や選び方、選ぶうえでのポイントもまとめているので参考にしてください。
1.訪問介護での給料計算の考え方
訪問介護に関わらず、介護事業の給料計算は煩雑になりやすいです。
考慮すべき事項が多く、「従業員一人ひとりの給与が定型化しづらい」のが原因となっています。
なかでも、考慮すべき内容が以下の項目です。
- 職種(資格の有無)
- 役職
- 昇給
- 勤務形態(正社員・パート・年俸制の従業員)
- 法改正による基本単価の変更
- その他法改正によるもの(例:処遇改善加算)
さらに、経営者は経営とヘルパーを兼務する場合も少なくありません。
そこで、訪問介護の給料計算を、以下の3つの項目に分けて解説します。
- 職種別・雇用形態ごと給料計算する
- 一般的な給料計算の項目を把握する
- その他の影響を確認する
それぞれ確認しましょう。
考え方1.職種別・雇用形態ごとに給料計算する
訪問介護のスタッフは、一般に「訪問介護員(ヘルパー)」と総称されます。
しかし、職員の保有資格はさまざまです。資格を考慮して給料計算する場合は職種別、厳密には資格別に給与を分けて考える必要があります。
【訪問介護員の資格と雇用形態】
資格 | 雇用形態 |
介護職員初任者研修 (旧ヘルパー2級) 実務者研修(旧ヘルパー1級) 介護福祉士 | 正社員 パート 派遣・登録ヘルパー |
そして、訪問介護の雇用形態は大きく2つに分けられます。
給料計算に関わる雇用形態「直接型」と「登録型」
訪問介護の雇用形態には、「直接雇用」と「登録型」があります。
直接雇用には正社員とパートがあり、どちらも事業所が直接契約を結んでいるスタッフです。月給・時給に関わらず、事業所の規定にしたがって給料を支払います。
一方、登録型は働きたい時間や曜日を登録して働く雇用形態です。「派遣ヘルパー」や「登録ヘルパー」とも呼ばれます。
ちなみに、登録ヘルパーとは介護業界に特有の雇用形態です。そのため、、給料計算は直接雇用のパートの職員とは異なります。
登録型の雇用で考慮すべき項目をまとめたのが、下記の表です。
項目 | 検討すべき内容 |
サービスごとの支払い体系 |
|
交通費の扱い方 |
|
このほか、祝日・年末年始といった休暇で登録ヘルパーに依頼する場合は、割増賃金を支払うといった、地域や事業所ごとに考え方が異なります。
考え方2.一般的な給料計算の項目を把握する
訪問介護に限った計算ではありませんが、一般的な給料を算出するには必須の項目です。基本項目となるので、きちんと把握しておく必要があります。
項目は、大きく以下の2つに分けられます。
- 支給額
- 控除額
「支給額」から「控除額」を差し引いた金額が「従業員に直接支払う額」(いわゆる手取り金額)です。
参考までに、基本項目を下記の表にまとめておきます。
支給額 | 控除額 |
基本給 | 社会保険料 |
残業代 | 雇用保険料 |
通勤手当 | 所得税 |
資格手当 | 住民税 |
資格 | |
役職手当 | |
出張手当 | |
その他の手当 |
上記の内容に加え、有給休暇や遅刻・欠勤といった勤怠データの加味も必要です。
考え方3.その他の影響を確認する
給料の計算は、法改正や各種制度の変更によって、検討すべき項目が増えます。
たとえば、社会保険料や労働基準法の改正などです。法改正により、時間外労働や育児休暇、時給制の待遇規則なども変更する必要が出てきます。
訪問介護に関わらず、制度の基準を守らなければ罰則や指導の対象です。業務にも支障をきたすので注意してください。
また、介護保険には独自の法改正があり、従業員の給料に影響します。介護保険独自の計算として代表的なのが「処遇改善加算」です。
補足:処遇改善加算などの法改正も給料計算に影響
正式には、「介護職員処遇改善加算」と呼び、介護職員の給料体系を見直して、安定した賃金が支払われることを目的に実施されました。
給与形態にも影響する法改正ですが、いまのところ扱い方は事業所の考え方次第です。
従業員全体の給与に当てる事業所もあれば、能力のあるスタッフを優先的に支給するケースもあります。
介護労働安全センターの調査によると、9割以上の事業所で「給与の引き上げ」や「一次手当の支給」が行われています。
介護保険法の改正により給料の計算が変わることがあり、その点も考慮しなければいけません。
出典:「令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」p59
2.訪問介護の給料計算で役立つ知識
訪問介護の給料計算を考えるとき、給与の相場を把握するのも重要です。
介護業界は人材の流動性が高く、事業所によっては頻繁にスタッフが変わることもあります。
訪問介護は人対人の仕事であるため、人材不足は事業所の運営に大きな支障となります。考えるべきは、相場との比較です。
こうした背景を踏まえて、以下の3つの項目を紹介します。
- 訪問介護の給料・手取り額
- 訪問介護の時給平均
- 直接社員と登録ヘルパーの給料差で検討すべき事項
それぞれチェックしましょう。
知識1.訪問介護の給料・手取り額
まず、訪問介護の給料の相場をみていきます。以下は、厚生労働省の調査をもとに作成した「訪問介護スタッフの給与結果」のまとめです。
会社の規模 | 10人以上 | 10〜99人 | 100〜999人 | 1,000人以上 |
給与額 | 26.0万円 | 26.7万円 | 25.2万円 | 26.2万円 |
賞与・ボーナス | 44.5万円 | 43.4万円 | 47.1万円 | 36.8万円 |
参照:令和2年賃金構造基本統計調査
※給与額は資料「きまって支給する現金給与額」より
平均給料は26万円、ボーナスの平均額は「40〜45万円ほど」です。
上記の値は、調査対象となる人数や地域、年齢、勤続年数によっても前後します。そのため、一応の目安として参考にしてください。
次に、手取り額の計算は控除額を差し引き、総支給額の7〜8割程度が目安です。
月ごとの給料は26万円×0.8=20.8万円
年収換算では(26万円×12+40〜45万円)×0.8=281〜285万円
結果、訪問介護の手取り額は月給として約21万円、年収では281〜285万円となります。
参照1:令和2年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
参照2:所得税…国税庁『給与所得の源泉徴収税額表(令和2年(2020年)分)』
知識2.訪問介護の時給平均
時給金額は、パートの給料を考えるときに欠かせない内容です。
ただし、訪問介護の時給平均は地域性が大きく、また事業所ごとに異なります。相場を知るうえでは、地域の求人情報の把握が重要です。
時給金額は、首都圏がもっとも高く、地方になるほど低い傾向があります。インターネットの求人情報を加味した結果、1,000円〜1,600円の間で時給額の幅があるようです。
全国労働組合連合会の調査結果によると、訪問介護を含めて介護職全体のパート時給額は平均して1,104円となっています。こちらも合わせて参考にしてください。
知識3.直接社員と登録ヘルパーの給料の差
登録ヘルパーの場合、直接雇用とは給料体系が異なる場合があります。
事業所が、直接雇用しているパートと給料形態を区別するケースがあるからです。
登録ヘルパーの場合は、直接雇用のパートとは違って直行直帰が許されています。拘束時間が短く自由度は高いため、介護業務している時間帯にのみ給料が発生します。
また、登録ヘルパーの時給には交通費が含まれており、通常のヘルパーとは時給差が出るケースも少なくありません。
また、登録ヘルパーの場合は「業務のサービス区分(身体介護/生活援助)」、「交通費の扱い」などが給料の計算に影響します。考慮すべき内容が増えるので注意しましょう。
▼さらに詳しく知りたい人は、以下のページを参考にしてみてください。
>>登録ヘルパーは常勤換算に含めていいの?具体例を用いて計算方法を伝授
3.訪問介護の給料計算に役立つソフトも活用してみよう
給料計算には、ソフトの活用がおすすめです。
給料計算に必要な基本項目はもちろん、夜間・早朝・祝日の割増賃金や交通費、サービス区分ごとの時給単価などにも対応しています。
また、業界特化型のソフトなら、給料以外にも備えている機能が豊富です。「計画書作成」「出勤簿」「報告書」といった内容まで一元化できるソフトもあります。
さらに、業界特化の会計ソフトの多くは法改正の対応も可能です。こうしたソフトを活用すれば業務効率が格段にアップします。
はじめて会計ソフトを検討するときは、「操作が難しそう」と不安に思うかもしれません。
しかし、操作は慣れれば簡単で、手動で給料管理をするよりも効率的です。
以下、会計ソフトの一般的な操作の流れを簡単に解説します。
使い方1.給料・時給支払の初期設定
初期設定では、「事業所の基本情報」や「従業員の基本情報」などを設定します。
設定する給料は、「時給で設定する場合」や「規定の額面で設定する」などソフトによりさまざまです。
とくに時間給で働くパート勤務者の場合は、勤務した時間や曜日、サービス内容によって給料が変動するので、給料計算が複雑です。
しかし、初期設定で時給を設定しておけば、スケジュールと実績時間に応じて自動で給料計算してくれます。
使い方2.訪問介護員ごとに時給や手当を設定
次に、訪問介護員ごとに、給料関係の情報を設定します。
職員に応じて基本給料や手当が異なる場合、そのデータを入力してください。たとえば、役職手当や資格手当が付属する場合です。
住宅手当を付与している事業所であれば、それらの情報も設定できます。また処遇改善手当を、職員の経験や能力ごとに振り分けている場合も同様です。
手当のほか、勤務日や時間帯に応じて割増賃金を設けている場合、それも忘れずに設定するようにします。
使い方3.支払設定・計算
従業員ごとの給料設定の後、給料の締切に合わせて会計処理を設定します。給料日の締切や支払日は、事業所により異なるでしょう。
ここまで登録すれば、「給料の支払いが滞りなく行われたかどうか」が確認できます。
手計算で給与を管理している場合、支払日の遅れやズレが生じるケースがないとは言い切れません。会計ソフトでは、そういったミスも防止できます。
使い方4.支払明細書の印刷
すべての設定を終えたあと、支払い明細書を印刷して会計業務は完了です。
初期設定のデータ入力は、パソコン操作に慣れていないと面倒だと思うかもしれません。
しかし、既製のソフトは優秀で、直感的に操作できるようなソフトもあります。
一度設定してしまえば、給与管理・計算・印刷まで一元化が可能です。しかも、従業員の変動にも素早く対応できます。
4.介護向け給料計算システムの選び方
給料計算のソフトやシステムは、多く商材が出揃っています。それぞれの商品に特徴や強みがあるため、「どれがよいのか」と選び方に迷うでしょう。
選ぶポイントを挙げればキリがありませんが、最低でも以下3つは押さえてください。
- 事業所に必要な給料計算機能が備わっていること
- サポート体制が整っていること
- 価格の妥当性
まずは、「事業所に必要な給料計算の機能が備わっている商品」である点が重要です。
一般の給与会計とは異なり、訪問介護では職種や資格、技能面などにより職員の給料が異なります。
また、従業員には正社員もいればパートもいます。さらに登録型ヘルパーといった訪問介護に特有の雇用形態もあるため、雇用形態に応じた勤怠管理が必要です。
次に、サポート体制が充実しているソフトを選ぶことも大切です。労働環境の法改正だけでなく、介護保険独自の法改正が職員の給料に影響する場合があります。
この他、サポート面も選ぶポイントになります。トラブル時のサポートには、電話やチャット、メールといった機能で対応するなどメーカーにもよりけりです。
メールだけのサポートだと心もとなく、いざというとき安心して相談できる体制が整っていることが理想でしょう。
そして、「商品と価格のバランス」の考慮も大切なポイントです。介護関連のソフトは、施設系や訪問系など他部門に対応するため、豊富な機能を備えている商材があります。
部署をたくさん構える大規模事業所であれば便利ですが、訪問介護サービスを単独で提供している事業所にとっては不要な機能もあります。
ソフトは、機能が増えれば価格もあがる場合が多いです。不要なシステムに高額のお金を払うのは無駄になるため、必要かつ十分な機能が備わっている商品を選んでください。
5.訪問介護向けの給料計算ソフト
介護向けの給料計算ソフトは種類が豊富です。
ここでは参考資料として、有名なソフトを以下に挙げておきます。検討材料に役立ててください。
商品名 | 特徴 |
カイポケ経営支援サービス |
|
Colibri(コリブリ) |
|
介舟ファミリー |
|
トリケアトプス |
|
※各社ホームページを元に作成
訪問介護で使う会計ソフトは会計単体のものが少なく、どの商品も「付属」あるいは「連携」といった形式でさまざまな機能を装備しています。
料金は、利用するサービスにより変わります。事業所ごとに求める内容を、必要かつ十分に満たすソフトを導入してください。
費用面をメインに検討するときは、初期費用や維持費のコストが抑えられる製品がよいでしょう。ただし、安かろうわるかろうではいけません。
機能に加えて、サポート体制が整っている点も大切な選択ポイントです。
まとめ:訪問介護の給料計算で効率アップを図ろう
訪問介護での給料計算、それに関連する平均年収や時給の相場について紹介しました。
訪問介護の給料計算は一般企業の会計とは異なる箇所が多く、考慮しなければならない事柄に特有の計算があります。
職種や資格、経験や技能、さらに介護保険制度による給与体系の変動などです。
このほか、雇用形態も給与に影響します。
たとえば、登録ヘルパーは介護業界に特有の人材形態です。担当したサービス区分や実務・移動時間の扱い方、交通費の解釈など取り決める内容が通常のパートとは異なります。
これらをすべて考慮し、その都度給料を計算しなければいけません。扱う項目が増えればミスも増加します。そこで、介護業務に特化した会計ソフトの活用がおすすめです。
もちろん、一般的な会計ソフトでも会計処理はできます。しかし、介護保険の改正には対応していません。
訪問介護での会計は、業界に特化したものを選ぶのが得策です。
業界特化型のソフトは多種あるため、もう一度以下のポイントを確認しておきましょう。
- 事業所に必要な給料計算機能が備わっていること
- サポート体制が整っていること
- 価格の妥当性
上記のポイントを押さえて、その事業所に適した会計ソフトを選んでください。