訪問介護の医療行為はできる?具体例で対応可否を確認
訪問介護の仕事をしていると、医療行為について気を使う機会も多いです。
看護師が現場にいないため、ときには自分で判断しなければいけない状況もあるかもしれません。
今回「みーつけあ」では、訪問介護の医療行為について解説します。
医療行為のなかには、訪問介護員が対応できるものもあります。
具体例や資格による違いまで解説するので、ぜひ参考にしてください。
1.訪問介護で医療行為は提供できる?
訪問介護では、医療行為を提供できません。
しかし、「介護福祉士養成施設における「医療的ケア」の追加について(概要)」によると、治療が目的ではない「医療的ケア」はおこなえるとされています。
医療的ケアは、日常生活に必要な医療的な生活援助の範疇であることが前提です。
介護施設や障害者施設での医療的ケアのニーズが高まりつつあるため、医療従事者ではない人がおこなえる行為も明確化されました。
補足:そもそも医療行為とは
医療行為とは、厚生労働省の「医師法第17条」に対する解釈で「医師の医学的判断や技術がなければ危害が及ぶ行為」と定められています。
そのため、医学の専門家でない訪問介護員は、医療行為を提供できません。
医療行為を提供できる資格には、以下のようなものがあります。
- 医師
- 歯科医師
- 看護師 など
看護師は、すべての医療行為を提供できるわけではなく、医師の判断に基づく指示に対応します。
ここまでの内容で、訪問介護で医療行為はできないことを伝えてきました。
しかし、訪問介護でも例外的におこなえる医療行為があります。ここからは、具体例を踏まえて確認しましょう。
2.訪問介護でおこなえる医療行為の例
訪問介護の現場では、「医療行為かそうでないか」という線引きで悩む機会が多いはずです。
具体的な線引きを理解していなければ、すべてが医療行為に思えて十分な訪問介護サービスを提供できないかもしれません。
具体的にできるかできないかを、以下の項目別に紹介します。
- 軟膏の塗布(褥瘡を除く)
- 湿布の貼り付け
- 点眼薬の点眼
- 内服薬の介助
- 坐薬の挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧介助
根拠に基づく判断で、自信を持って日々の訪問介護を提供しましょう。
「医師法17条」の解釈について、厚生労働省が出した通知をもとに具体例を紹介します。
例1.軟膏の塗布(褥瘡を除く)
乾燥防止の保湿剤や軟膏の塗布は、訪問介護でも提供可能です。
しかし条件として、医師の指示で処方された軟膏だけに限ります。
塗布する際は、薬剤師による用法を遵守してください。
また、看護職員の保健指導や助言がある場合は、その他の軟膏も塗布できます。
褥瘡(じょくそう)の場合は、経過観察が必要です。
そのため、定められた時間で利用者さんのお宅を発たなければいけない訪問介護員では、褥瘡の措置ができません。
例2.湿布の貼り付け
湿布薬も、医師または歯科医師の処方により出されたものに限り、貼り付けるといった処置ができます。
高齢者は体の痛みが増えるため、処方されている湿布が多いこともよく目にするでしょう。
湿布を貼る際は、決められた用法・用量で使用してください。
また、皮膚が弱い利用者さんは、長期間の着用で炎症を起こす可能性もあります。
湿布の貼り付け時には、皮膚状態の確認も忘れずにおこないましょう。
例3.点眼薬の点眼
処方された点眼薬は、訪問介護員が点眼しても問題ありません。
ただし、市販の点眼薬を使用している利用者さんの場合は、対応できない旨を伝えましょう。
点眼薬には、乾き目や抗生剤など、症状ごとにさまざまな種類があります。
デリケートな粘膜に触れるリスクがあるため、周囲の安全を確保してから点眼します。
感染症に対する点眼薬では、処方された側と別の目に接触しないように配慮してください。
例4.内服薬の介助
内服薬は、服用するタイミングや量に注意しましょう。
利用者さんに処方される内服薬は、以下のような服用時間を定めていることが多いです。
- 食前
- 食間
- 食後
処方箋で「数量が適切であるか」も確認してください。
利用者さんによっては、「食欲がないから薬だけ飲みたい」と希望する場合があります。
現場で自由に判断せず、医師や薬剤師の指示を確認してから対応しましょう。
例5.坐薬の挿入
坐薬の挿入は、「厚生労働省の見解」によって2005年に医療行為から外れました。
座薬は、体内の温度で溶けやすく作られているため、常温保管できない場合があります。
使用後は、冷蔵保存する点にも気を配りましょう。
▼詳しい挿入方法を確認したい場合は、以下の記事を参考にしてください。
>>訪問介護の坐薬挿入は医療行為?確認ポイントと入れ方を解説
例6.鼻腔粘膜への薬剤噴霧介助
点鼻薬の介助は、利用者さんが苦しそうにしたり、咳き込んだりしないか確認しながらおこなってください。
頓服薬として抗ヒスタミン薬を用いる場合が多いですが、1日の使用制限は事前に把握しておきましょう。
利用者さんの状態によって、複数回の利用を求められる可能性もあります。
噴霧が必要であるか判断できない場合は、事務所に必ず確認してください。
定型業務であっても、利用者さんを観察して様子の変化を感じ取れるような配慮が必要です。
3.訪問介護で対応できるその他の医療行為
以下の医療的行為は、訪問介護員でも提供できます。
- 爪切り
- 歯磨き(口内洗浄)
- 耳かき
- ストーマパウチの排泄物処理
- 市販の浣腸器を利用した浣腸
前提として、「利用者さんの状態が安定している場合のみ、医療行為から除外される」ことは覚えておきましょう。
治療が必要な状態になると、訪問介護員では対応できません。
訪問介護で観察して、状態が変化してきた場合は、サービス担当者会議で医師と検討が必要な項目です。
その1.爪切り
疾患がない利用者さんの場合は、爪切りが可能です。
しかし、以下のようなケースでは、爪切りがおこなえません。
- 爪そのものに異常がある
- 爪の周囲の皮膚に化膿や炎症がある
- 糖尿病等の疾患がある
安全に留意して実施できる場合に限り、爪切りに対応してください。
「訪問ヘルパーは爪切りできる?医師法に違反しないための知識」では、爪切りについて詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
その2.歯磨き(口内洗浄)
口内洗浄は、歯ブラシや綿棒などで利用者さんの口の中を綺麗にします。
口内洗浄は、「口腔ケア」とも呼ばれています。
一般的に認識されている歯磨きと違い、以下の部分が洗浄範囲です。
- 歯
- 口腔粘膜
- 舌の汚れ
ただし、口腔内を目視で確認したとき、歯周病の可能性がある場合は、訪問介護で対応できない項目です。
その3.耳かき
耳垢の除去は、訪問介護で対応できます。
耳垢とは、剝がれた皮膚や埃などが外耳の中で混ざってできたものです。
注意しなければいけない状態として、利用者さんが耳垢塞栓になっていないかを確認しましょう。
耳垢塞栓とは、耳垢が押し込まれたり、水分によってに膨らんだりして、外耳道が塞がれた状態です。
耳垢塞栓が確認できた場合は、専門的な処置が必要になります。
その4.ストーマパウチの排泄物処理
訪問先の利用者さんのなかには、人工肛門を造設した人もいます。
訪問介護員は、ストーマに装着されたパウチの排泄物を捨てるところまで対応できます。
しかし、肌に密着したパウチの交換は、訪問介護員が対応できない項目です。
パウチ交換ができないため、排泄物処理時に汚れたり、剥がれかけたりしないように心掛けましょう。
その5.市販の浣腸器を利用した浣腸
浣腸は、市販の浣腸器でも訪問介護員が対応できます。
医師法第17条によると、使用できる浣腸は以下のとおりです。
- 挿入部の長さ5から6cm程度以内
- グリセリン濃度50%
- 成人の場合で40g以下
排便コントロールが難しい利用者さんの場合、ケアプランに浣腸が含まれることもあります。
依頼がある場合は、ケガ予防のためにも、浣腸のやり方をおさらいしておきましょう。
4.訪問介護で介護福祉士のみで認められる医療行為
高齢化が進み、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための地域包括ケアシステムが提唱されています。
医療との連携強化の視点として、介護職員によるたん吸引等の医療行為の実施があげられました。
そのため、介護福祉士は一定の専門的な研修を受けた場合のみ、以下2つの医療行為が可能です。
- 喀痰吸引
- 経管栄養(胃ろうケア)
現在、介護福祉士ではない人にとっても、今後必要になる知識かもしれません。
それぞれの内容を確認しておきましょう。
医療行為1.喀痰吸引
喀痰(かくたん)とは、唾液・鼻水・肺や器官から排出される老廃物を含んだ粘液のことです。
喀痰吸引は、以下のようなリスクを防止する目的があります。
- 窒息
- 呼吸困難
- 肺炎 など
喀痰がうまく排出できずに軌道にとどまっていると、窒息や呼吸困難がおきます。
また、誤嚥(ごえん)によって、肺炎のリスクも増す可能性もあります。
喀痰吸引は医療行為ではありますが、高齢者や障害者の地域生活のために必要な日常的な生活援助として厚生労働省に位置づけられました。
介護福祉士で、喀痰吸引の研修課程を修了すると実施が可能です。
医療行為2.経管栄養(胃ろうケア)
経管栄養は、口からの食事が困難になった人が、胃や鼻、腸に付けたチューブから栄養を送る方法です。
経管栄養は、食事と解釈されたために、日常生活に必要な行為と位置づけられました。
利用者さんの状態によって、チューブの位置が異なるため、対応時は注意しましょう。
必要な研修内容は、「喀痰吸引研修」に含まれます。
▼気になる人は、以下の記事で内容を確認してください。
>>介護福祉士(介護職員)は喀痰吸引研修を受けることで仕事の幅が広がる!
訪問介護と医療行為に関するQ&A
最後に、訪問介護の現場でよくある医療行為の疑問を解説します。
- 訪問介護でバイタル測定はできる?
- 訪問介護で在宅酸素はどこまで対応できる?
- 訪問介護員ができないことは何がある?
バイタル測定や在宅酸素療法は、訪問介護で関わる機会も多いでしょう。
また、訪問介護には医療行為以外にも、やってはいけないことがあります。
訪問介護で気になった経験があれば、ぜひ参考にしてください。
Q1.訪問介護でバイタル測定はできる?
A.厚生労働省通知では、「自動血圧測定機による血圧の測定は介護士によっておこなえる」とされています。
バイタル測定では、以下4つの項目を測ります。
- 体温
- 血圧
- 脈拍
- 呼吸
介護現場では、主に血圧や脈拍を測ることとして使われる用語です。
「みーつけあ」では、バイタル測定について詳しく書いた記事がありますので、ぜひご覧ください。
>>訪問介護でバイタル測定はできる?【医療行為にあたるか徹底調査】
Q2.訪問介護で在宅酸素はどこまで対応できる?
A.在宅酸素の取り扱いは医療行為になるため、訪問介護員はおこなえません。
しかし、在宅酸素を使用している利用者さんへの介護は、通常どおりおこなえます。
「みーつけあ」では、在宅酸素を詳しく解説した記事があるので、こちらも参考にしてください。
>>訪問介護で在宅酸素療法の操作は依頼できる?対応可能か知ろう
Q3.訪問介護員ができないことは何がある?
A.医療行為以外にも、ケアプランに含まれていない介護はおこなえません。
また、今回紹介したとおり、訪問介護員は医療行為もできません。
しかし、状態が安定していて、医師や看護師の専門的な経過観察が必要でない場合は、日常生活に必要な生活援助として認められています。
▼できること・できないことは、以下の記事で詳しく解説しています。
>>訪問介護のヘルパーがやってはいけないこと・できないことについて解説!
まとめ:医療行為を正しく理解して安全な介護を
医療行為に含まれると思っていても、訪問介護員ができることはあります。
対応できない事例でも、サービス担当者会議で利用者さんの希望を共有してください。
ケアマネジャーが必要性を確認すれば、利用者さんの生活状況はよりよいものとなり、介護予防にもつながります。
ケアチームの一員として、訪問介護員のやりがいを感じて働きましょう。