訪問介護で在宅酸素療法の操作は依頼できる?対応可能か知ろう
「訪問介護で在宅酸素療法の操作をお願いしてもよいのかな?」とお調べですね。
通常、訪問介護員は医療行為の実施が法律で禁止されています。しかし、どの行為が医療行為なのか悩む人は多いです。
じつは、在宅酸素療法は医療行為ですので、訪問介護では依頼できません。
そこで今回「みーつけあ」では、在宅酸素療法について操作を依頼できる人や費用、注意点などについて紹介します。
在宅酸素療法に関する疑問を解決して、安心してサービスを利用してください。
1.在宅酸素療法(HOT)とは?
在宅酸素療法とは、室内にある空気よりも高濃度の酸素を吸入する医療行為のことです(独立行政法人 環境再生保全機構)。
「Home Oxygen Therapy」の略称から「HOT(ホット)」と呼ばれることもあります。
たとえば、息切れが激しくなるせいで運動不足になって呼吸機能が低下したり、心臓に負担がかかったりします。
こうした日常生活が困難な状態にならないように、在宅酸素療法で適切な酸素量を確保するわけです。
このように、在宅酸素療法は酸素を自ら体内にうまく取り込めない人が、病院外で発生する酸素不足を防ぐためにおこなわれます。
しかし訪問介護では、操作の依頼を受けられないのが現状です。
2.訪問介護で在宅酸素の操作は依頼できない
訪問介護のサービスを提供する場合、在宅酸素療法に関する操作を依頼できません。
依頼できない理由は、以下のように2つあります。
- 訪問介護では医療行為ができない
- 在宅酸素療法では訪問介護を依頼できる
理由を理解しておけば、無理に訪問介護士に在宅酸素療法の取り扱いをお願いしようとは思わなくなるでしょう。
それぞれの理由について、順番にみていきます。
理由1.訪問介護では医療行為ができない
自宅で訪問介護を受けている利用者さんが、在宅酸素療法をおこなうケースは感染症拡大を背景に増えています。
しかし、訪問介護士が在宅酸素の操作をおこなうことは、医師法により禁じられています(医師法 | e-Gov法令検索)。
簡単にまとめると、在宅酸素療法の取り扱いは医療行為として指定されており、医師以外で対応してはならない決まりになっているためです。
医師法第17条には、「医師でなければ、医業をなしてはならない」ことが定められています。
医業とは、仕事として医療行為をおこなうことです。そのため、医師ではない訪問介護士は、医療行為である在宅酸素療法に対応できません。
訪問介護員にお願いすると困ってしまうので、訪問介護の際に在宅酸素療法の取り扱いを依頼するのはやめておきましょう。
▼訪問介護の医療行為に関しては、以下の記事をご参考ください。
>>介護ヘルパーの医療行為は禁止?実態やできること・できないことについて
理由2.在宅酸素療法では訪問看護を依頼できる
在宅酸素療法については、訪問看護に依頼できます。
訪問看護は、看護師や理学療法士などが訪問してくれて、暮らしのサポートをしてくれるサービスです。
看護師は、医師の診療の補助として在宅酸素療法の機器の取り扱いを認められています。
つまり、看護師の場合は在宅酸素療法で用いるような医療機器の取り扱いについても、安心して依頼できるわけです。
ただし訪問看護は、介護保険や医療保険といった公的制度を利用するケースと、自費で利用するケースの2パターンがあります。
公的制度を用いる訪問看護では、利用回数や時間帯に制限がある点に注意が必要です。
補足:医療機器メーカーは業務委託として取り扱う
「在宅酸素療法の機器をメーカーの営業さんが設置していたけれど、違法なのかな?」と疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。
医療機器メーカーは、在宅酸素療法を業務委託で取り扱っているので、装置を設置しても問題ありません(レンタルの仕組み | 在宅酸素療法(HOT)について | 在宅医療 | TEIJIN Medical Web 帝人ファーマ株式会社)。
そのため、医師によって在宅酸素療法の実施が決まったら、医療機器メーカーは医療機関の指示に従って機器を設置します。
3.訪問介護と在宅酸素療法で利用できる保険と費用
「在宅酸素療法」は、必要となるお金が高額になりそうで、治療をためらっている人も多いはずです。
そこで、訪問介護や在宅酸素療法に関連する「社会支援制度」を活用しましょう。
なかでも、代表的な社会支援制度は以下の3つです。
- 医療保険
- 高額医療費
- 障害年金
これら3つを押さえたうえで、在宅酸素療法を利用すると費用面の不安を低減できます。
それぞれについて、わかりやすく説明するので参考にしてください。
費用1.医療保険
在宅酸素療法は、条件を満たせば医療保険の対象です。
条件とは、以下の疾患によって在宅酸素療法をおこなう場合となっています。
- 高度慢性呼吸不全例
- 肺高血圧症
- 慢性心不全の対象患者
- チアノーゼ型先天性心疾患
これらの疾患に当てはまる場合は、「自己負担分1割〜3割」で治療を受けられます。
例として、一般的に在宅酸素療法で医療保険の対象になる場合は、1ヶ月で必要な金額が7,680円〜23,040円ほどです。
ちなみに、介護保険は医療保険と併用ができません。
そのため、原則として介護保険は利用しないことも押さえておきましょう。
費用2.高額医療費
医療保険には、高額な医療費を支払うときに利用できる高額医療費制度があります。
高額医療費制度とは、医療費が1ヶ月間で決められている上限の金額を超えたら、超えた分を支給してもらえる制度です。
限度額は1ヶ月ごとに定められ、70歳未満の場合には以下のように算出できます。
外来・入院 | |
標準報酬月額53万円以上 | 50,000円+(総医療費 – 500,000円)×1% |
---|---|
一般 | 80,100円+(総医療費 – 267,000円)×1% |
低所得者 | 35,400円 |
70歳〜74歳の場合には、以下のように算出できます。
外来(個人ごとに算出) | 外来+入院(世帯ごとに算出) | |
現役並み所得者 | 44,400円 | 80,100円+(総医療費 – 267,000円)×1% |
---|---|---|
一般 | 12,000円 | 44,400円 |
低所得者I | 8,000円 | 15,000円 |
低所得者II (I以外) | 8,000円 | 24,600円 |
現役並み所得者には、本人か同じ医療保険に加入している70歳以上の人の市町村民税の課税標準額が、145万円以上である場合に当てはまります。
また、低所得者Ⅰに当てはまるのは、70歳以上で「家族全員の所得が0円になる場合」です。
高額医療費制度を利用する場合には、加入している保険の窓口で申請する必要があります。
費用3.障害年金
呼吸器疾患による障害が認められると、障害年金を受給できます。
障害年金とは、病気や怪我によって暮らしが制限される人が受け取れる年金です。
国民年金加入者は障害基礎年金、厚生年金加入者は障害厚生年金を請求できます。
ただし、障害基礎年金を受け取るには、障害等級が1級か2級であることが必要です。
障害年金の手続きは、年金請求書を手に入れることから始めます。
障害基礎年金なら市区町村役場か年金事務所、障害厚生年金なら年金事務所などで年金請求書を手に入れましょう。
また、在宅酸素療法が必要になる病気によって暮らしが制限される場合、身体障害者手帳が交付されます。
手帳を手に入れると、医療費の助成や税金の軽減、公共交通機関の料金割引などを受けられます。
身体障害者手帳の申請対象かどうかは、主治医に聞いてみてください。
4.在宅酸素療法中の注意点
在宅酸素療法をおこなっているときには、注意しておかなければならないことがあります。
必ず押さえておくべき注意点は、以下の3つです。
- 自己判断の酸素流入変更
- 火気の取り扱い
- 交通機関の携帯ボンベ持ち込み
これらの注意点を押さえておかなければ、容態悪化や爆発事故のような予想外の大きなトラブルが発生してしまうこともあります。
それぞれについて、順番にみていきましょう。
注意1.自己判断の酸素流入変更
在宅酸素療法をおこなう際には、自己判断で酸素流入変更をしないようにしてください。
自分だけの判断で流入量を変えてしまうのは、容態が悪化する可能性もあって危険です。
「もう少し酸素を増やすと、体調がよくなるかもしれない」と思うことはあるかもしれません。
しかし、医師に指示されている流入量から変えたい場合は、医師に相談するようにしましょう。
注意2.火気の取り扱い
在宅酸素療法の実施中は、火気の取り扱いに注意しなければなりません。
なぜなら、酸素は物が燃えるのを助ける性質のあるガスだからです。
たとえば、タバコやガスコンロ、ドライヤーなどを在宅酸素療法の機器の近くで使用すると、爆発事故が起きる可能性は非常に高いです。
装置を使用しているときは、2メートル以内で火気を使用しないようにしてください。
また、延長チューブの近くにも火気がないかを注意するとさらに安全です。
注意3.交通機関の携帯ボンベ持ち込み
交通機関に携帯ボンベを持ち込むときには、事前に利用する交通機関のルールを調べる必要があります。
たとえば、タクシーやバス、鉄道では酸素ボンベは2本までなら持込可能です(公共輸送機関における酸素吸入について)。
持ち込む際には爆発事故を避けるために、必ず禁煙であることまで確認しておきましょう。
また、飛行機の場合には申込書や診断書を提出しなければなりません。
交通機関ごとにルールが異なるので、利用前に調べる習慣をつけるのがよいです。
5.在宅酸素チューブにできる工夫
在宅酸素チューブには、簡単にできる工夫があります。
こちらで紹介する工夫は、自宅で実践できる以下の3つです。
- カニューラを固定する
- 緊急時用に携帯酸素ボンベを用意する
- 耳の痛みはガーゼで対策する
工夫すると、在宅酸素療法がおこないやすくなるので、ぜひ試してみてください。
それぞれの工夫について、順番にみていきましょう。
工夫1.カニューラを固定する
1つ目の工夫は、カニューラ(カニューレ)を固定して負担を軽減するものです。
カニューラとは、酸素を供給するチューブのことを指します。
素材や形状がいろいろあるので、利用者さんが使いやすいタイプのものを選びましょう。
じつは、カニューラや延長チューブに足を引っ掛けて転ぶ利用者さんも少なくありません。
家の中を整理整頓して、チューブに足を引っ掛けないように固定すると安全です。
壁や天井の邪魔になりにくい場所にチューブを固定して、転ばないように工夫してください。
工夫2.緊急時用に携帯酸素ボンベを用意する
停電や災害といった緊急時用に、携帯酸素ボンベを用意しましょう。
電気が使えない緊急時でも、携帯酸素ボンベに切り替えることで普段どおりに酸素を吸入できます。
医師に緊急時の対応について聞いて、携帯酸素ボンベの酸素の残量も定期的にチェックするようにしておくとさらに安心です。
工夫3.耳の痛みはガーゼで対策する
カニューラが皮膚に強く当たる耳の裏の部分には、ガーゼを巻いておくとよいです。
硬いカニューラが皮膚にこすれることで、耳の裏が痛くなります。
利用者さんが少しでも痛くなりそうに感じているなら、事前にガーゼをクッションとして挟んでおきましょう。
ガーゼの感触が苦手な場合は、頬の部分でテープで固定して耳の裏への刺激を緩和するように試してみてください。
まとめ:訪問介護と在宅酸素の併用はケアマネジャーに確認
酸素を体内に取り込めない人でも、在宅酸素療法をおこなえば生活の範囲を広げられます。
ただし、在宅酸素療法は医療行為なので、装置を取り扱える人が限られているので注意が必要です。
訪問介護のときに装置を取り扱うことはできず、訪問看護を利用しなければなりません。
訪問介護と在宅酸素療法を併用したい場合には、ケアマネージャーに確認してください。
ケアマネージャーに相談して、ベストなケアプランを作成してもらいましょう。